数年前の話。私は、ある晩夢を見た。
家の前に一台の霊柩車が止まり、男が降りてきて、私に言う・・・
数年前の話。
私は、ある晩夢を見た。
家の前に一台の霊柩車が止まり、男が降りてきて、私に言う・・・
「もうお一人様乗れる余裕が御座いますが、いかが致しますか?」
そこで私は目を覚ます。
不思議な事に、その日から、毎晩同じ夢を見るようになった。
霊柩車でやって来る男は、毎晩私に同じ質問をしてくる。
「もうお一人様乗れる余裕が御座いますが、いかが致しますか?」
少し気味が悪いと感じながらも、まあ、そんな事もあるだろうと、私は気にせずにいた。
ある日、私はデパートへ買い物に出かけた。
一通り店内を見て回り、最上階のレストランで昼食を済ませ、
そろそろ帰ろうかとエレベーターの前まで来ると、多くの人がエレベーターを待っていた。
私は心の中で舌打ちをする。
(この人数では一回で乗り切れないかもしれないな・・・)
そんなことを考えている間にエレベーターが最上階に到着した。
客達が次々にエレベーターに飲み込まれて行く。
私が乗り込む番になる。見た感じ、エレベーターは満員だ。
しかし、重量オーバーを告げる不愉快なブザーは鳴っていない。
どうしようか?と思案していると、エレベーターガールが微笑みながら、私に言った・・・
「もうお一人様乗れる余裕が御座いますが、いかが致しますか?」
ドキッとした。毎晩、夢に出てくる霊柩車の男と、まったく同じセリフだ。
「いえ、結構です」私は反射的にそう答えていた。
エレベーターガールは丁寧に頭を下げると、ゆっくりエレベーターのドアが閉まっていった。
次の瞬間、金属が引きちぎれるような音と、凄まじい轟音。数秒後に地震のような激しい揺れ・・・
・・・エレベーターは地下まで落下していた。
エレベーターに乗っていた客とエレベーターガールは即死だったそうだ。
その日以降、私が再び、あの不思議な夢を見る事はなかった。