小学生の頃、毎年夏休みや冬休みとかには母親の実家に行って遊んでたんだ。
その家には2歳上の従兄弟がいて、色々と連れ回してもらってた。
従兄弟が近くの山でクワガタが取れるって言うんで
連れて行ってもらう事になったんだ。
朝飯食ったら、長そで長ズボンに着替えて、
自転車に二人乗りしてちょっと走って山の麓に到着。
ロープ柵に沿って山を登って暫く歩いたら柵が途切れてる場所があった。
そこから山道に入りこんでちょっと歩くと、
膝より上くらいまでの高さの草が生えてる野原があった。
都会っ子だった俺は「こんな所行くのか?」って尋ねたんだけど、
「この辺りのやつは小学校入ったばかりでも怖がらねえぞ」
って言われたので馬鹿にされたくなくてついていった。
子供だったからかもしれないけどそこは結構な広さがあったと思う。
それでも長袖のおかげで草とかで怪我する事なくしばらく歩いて野原を抜けて、
また少し山道を登ったところに森みたいに木が茂ってる所があった。
そこがクワガタの宝庫で、
従兄弟が太めの木を蹴ったら上からクワガタが降って来た。
俺はすげー興奮して、真似して木を蹴ってはクワガタを落として虫籠に入れて、
クワガタなんて大した事ないじゃんって感じだった従兄弟も、
俺の様子が面白かったらしくて次々木を蹴ってクワガタを落として行く。
気付いた時には、俺だけでも多分軽く30匹くらいは捕まえてた。
持ってきてた大きめの虫籠の中に大量のクワガタ、
従兄弟も同じような感じだったと思う。
二人ともとにかくテンション高くなって、
無駄に叫んだり虫籠を上にあげたりしながら来た道を戻った。
で、野原の真ん中くらいまで戻って来た時だったと思う。
前を歩いてた従兄弟が急に転んだんだ。
話してる途中ですっ転んで、手に持ってた虫籠を放り投げてたのを覚えてる。
俺はガキだったので助けに行こうとかは思わずに、
その場で「大丈夫?」とか声を掛けてたら、
従兄弟が起き上がって「平気、平気」ってこっちを向いて笑うから安心した。
でも、従兄弟がそれから動かないんだよ。
さっき笑ってた顔が強張って泣きそうな感じになっていく。
聞きたくなかったけど「どうしたの?」って聞いたら
泣きそうな顔で「足が動かん、何か絡まってる」って言われた。
「見てくれ!」って言われるけど怖くて近寄りたくない。
でも、帰り道の方向に従兄弟がいるから通れないし、
「誰か助けを呼んでくる」とかもその時は思いつかなくって俺も動けなかった。
そんなときに、俺の後ろの方の草がガサガサッって音を立てた。
完全にパニックになって、虫籠をそこに投げつけて「ギャー」って叫びながら従兄弟の方に突進。
ぶつかって二人とも転んだけど、すぐに起き上がってそこから逃げて……
ちょっと離れた所で従兄弟も一緒に逃げてきてるのに気付いた。
「足は?」って聞いたら、従兄弟も気付いてなかったみたいで「あっ、動く」って。
従兄弟の足が動くようになってたので気が大きくなってた俺と、
年下の子供に情けないと思われたくない従兄弟(後で聞いた)はとりあえず虫籠を取りに戻った。
草が凹んでたので虫籠は二つともすぐに見つかったけど、
どっちも蓋が開いてクワガタは全部逃げてた。
俺達は二人とも怪我とかは全くなかった。
従兄弟の足も服の上から見てる限りは異常無し。
でも、もう一回取りに戻る気は湧かなかったので、そのまま家に帰る事にしたんだ。
昼前には家に帰れて、
飯食った後、縁側でアイス食べながらさっきの話をしてたら、
曾祖母さんが自分の部屋に来いって手招きするんだよ。
不思議に思いながら二人で曾祖母さんの部屋に行ったら、
「お前たち、あの山で何か悪さしただろ?」
っていきなり言われた。
キョトンとしてる俺たちに向って、
あの山には蛇の神様がいるって話が有って、
悪い事をしたら罰を与えるとかそういう話を曾祖母さんはしてくれた。
これが悪い事かなって思ってクワガタ取り放題の話をしたら、
「そりゃ取り過ぎだろ」って当然のことを言われた。
「でも、お前達が子供だし、悪さをしようとしていたわけじゃないから脅かすだけにしてくれたんだろう」
って話を纏めてくれた。
で、その時はそれで納得してたんだけどさ。
あれから何度か実家の方に戻った時とかに祖母さん達に話を聞いたり、
従兄弟もその辺りの古い話に詳しい人に聞いたらしいんだけど
その山に蛇の神様がいるとかそんな話、誰も知らないんだよ……。
曾祖母さんも俺らが中学生の頃に亡くなって詳しい話はもう聞けないし。
あの時、従兄弟の足に絡みついてたのは何なんだろうなって今でも気になってる……。