バイトに行くのにバイクで走ってた。
小雨が降る夜だったんだけど、バイトの時間には少し早くてちょっと煙草でも吸おうと高架下でバイクからおりたんだ。
「高架下」
バイトに行くのにバイクで走ってた。
小雨が降る夜だったんだけど、バイトの時間には少し早くてちょっと煙草でも吸おうと高架下でバイクからおりたんだ。
で、軽く一服してたわけなんだが、ふとあることに気がついた。
いつも走っている道とは別に道があったんだ。
「へ~、こんなところに道があったんだ」
と10数年間気づかなかった地元の道ってことで興味が出てきた。
「これ…、どこの道に出るんだろ」
と、バイトまで時間があるから走ってみることにした。国道と田んぼに挟まれた道が続いている。
「ほんと、どこにでるんだろ?」
と走っていた。
すると、バイクのライトが電信柱の横にある何かを照らした。
「なんだ???」
スピードを落とす。
……どうやら人みたいだ。
横は田んぼだし、農家の人だろうと思ったんだ。そ
の時は…。
スピードを落としたまま、その人に近づく。
電信柱にもたれてる。動かない。何をしているのだろう。
短い時間でそれくらいのことを考え、そしてその横を通り過ぎた。
で、ちらっとその人を見た。
「!!!!!!」
バイクのアクセルを一気に回す、この場にいたくない!そう思った。
「何だあれは!?人じゃない!!!」
そう、人は人だがあんな体制で生きていられるわけが無い。
体は直立なんだけど、頭が…、頭が肩のほうに首が90度折れ曲がって電信柱に頭を当ててもたれかかっていたんだ。
一瞬だったけど、無表情なおじいさんともおばあさんともとれる顔、とにかく老人だったと思う。
心臓の鼓動が早い。呼吸が乱れる。ほんとうに驚いた。
あそこまではっきりと視えてしまうとは…。
さっさとバイトに行こう。
そう思うはいいが戻る気にはなれない。だ
から、知らない道を突っ切るしかない。そう、知らない道を…。
「くっそ~、霊感があるとは自覚してたけどあれだけはっきり視えるのかよ~!最悪だ~!」
とか、独り言を言いながら、まだ走ってた。
バイトまで時間はあるとはいえ、知らない道を走っているわけで、どこに出るかもわからないし、まぁ、別の意味で”でて”しまったわけなんだけど…。
と、しばらく走っていると、向かって左側に高架下が見えた。
しめた!!そこをくぐって別ルートで元の道に戻れるかもしれない、と思い高架下に向かった。
まぁ、雨も降っているし、気持ちを落ち着かせたいっていうのがあって、高架下で一服することにした。雨が少し強くなっているな…。
そこには雨音と風の音、上で車が通り過ぎる音だけが鳴り響いていた。
音が反響してちょっと怖い。しかもカッパを着て走っていたとはいえ寒くなってきた。
まぁ、あんな体験した後だし。とか一人で苦笑いをしたりして…。
そこで、音楽を聴きながら行こう!とiPodと取り出した。
そして、音楽を聴きながらヘルメットをかぶりバイクのエンジンをかけた。
この高架下を通り抜けるために…。
「ん~?なんだぁ~?」
おかしい。違和感。
進もうと思う方向がこんなにも暗いか、っていうぐらい暗い。
ライトで先を照らすが約5メートル以上先がはっきりみえない。
この、通ろうとしてる高架下がどんなのか説明をしていなかったわけだが、トンネルに近い。
3,4メートル上を道路が通っている。この道路の道幅からして、突っ切るのに10メートルあるかないか。ほとんどトンネル状態。
で、まぁ、先がみえないわけで。高架下もといトンネル抜けた先に、民家や店・工場などの光が灯っているのがうっすらでも見えてもおかしくないはず…。
「今、夜とはいえ暗すぎやしないか?」
と思いつつ早くバイトに向かうべくアクセルをゆっくりと回していった。
バイクをおそるおそる発進させ、進む。
「?」
「??」
「???」
…ない、出口がない??
もう数分走っている。しかもバイクで。おかしい。やっぱりおかしい。
さっきあんな事があったから何かまずいことになってるんじゃ…!?と焦っていた。
そう、その予感は的中した。
『…ぺたっ』
「ん?」
『ぺたっ…、ぺたっ…』
何か、はだしで廊下をあるいているような、そんな音が聞こえる。
いや、まて、今自分は音楽を大音量で聴いてるはずじゃ?
音楽は聞こえている、でも、足音も聞こえる。
どういうことだ?出口が無いから気が気じゃないっていうのに更に追い討ち。
かなりパニック状態に陥っていたんだと思う。
「あ~~~~!うわ~~~~~~~!」叫びまくり。
でも、足音は消えない。直接頭に響くような、そんな音。
『ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ!!!』
足音はスピードを上げてきているようだ。近づいてきている気がする。でも、振り向けるわけが無い。
バイクのメーターを見ると60km/hは余裕に越えている。
「やばい、やばい、やばい!!!」
本能がそう告げる。でも足音のスピードがさらに上がっていく。
『ぺたっ、ぺたっ…ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた!!!』
もう、すぐ後ろだっ!!死ぬっ!!と思った瞬間。
シーン…
音がやんだ。耳元では大音量で音楽がなっている。
「助かった~…」と安堵した。
その瞬間
『バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!』
ヘルメット(フルフェイス)をものすごい勢いでたたく音が。
衝撃は無いがものすごい音だけが頭に響く。
絶対に後ろにいる!それがヘルメットを叩いている。
『バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!』
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
もうフルスロットルで走り、叫ぶしかなかった。
いや、声になっていなかったかもしれない。
後ろなんて振り向けるわけが無い。
ミラーなんてその時へし折ったのだから。
…数10分走っただろうか、恐怖の絶頂に達したか!?というくらいにフッ!!と急に周りの景色が変わった。
「出れた…のか?」
前には田んぼが広がっている。
ぼんやりと民家だろうか、ずっと先に光がみえる。
助かった!!そう思い一目散に元の道に戻ろうとバイクを走らせた。
そして、元いた道まで戻り、そこで携帯を開いた。
そう、安心した瞬間、数10分走ったことでバイトに遅れるのでは!?、と急に冷静になったんだ。で、時間はというと…。
「え?…脇道に入ってから2分ちょっとしかたっていない…??」
あの先のみえない高架下は?足音は?ヘルメットを叩かれた音は?鮮明に覚えている。
でもこれはどういうことだ。自分だけ時間の流れが遅かったのか?あの恐怖体験は?もう、何もかもがわからなかった。
異次元に迷い込んでしまったような…、狐につままれたような感覚のまま、異様な寒さに、恐怖に体を震わせバイトへ向かった。
とある夜の話は以上です。
―後日―
友人にその話をしたところ、その高架下を見に行こうじゃないか!と、まぁ、当然の流れなのだけど、行くことになった。
もちろん明るいうちに。
そして…
「そうそう、こっちの道に入ったんだけどー」
といった瞬間、友人は「はぁ?」って顔になった。
自分はというと「はぁ!?」って。意味がわからなかったのだ。
道が無い。というか、フェンスが立っている。
その先は、ボロボロのあまり舗装されていなそうな道?が続いていた。
確認のためといって、フェンスを越えずっとその道を行ったが、あの老人のもたれかかった電信柱は見当たらない。
しまいには、その問題の高架下が見つからない。
結局その日友人には馬鹿にされ散々な一日だった…。
でもね、その数日後、近くの高架下で死体が見つかったんだ。自殺だと思われるものが。
車の排気ガスを車内に、ってやつらしかった。
しかも、その車一ヶ月近く放置されていたんだ。
日陰になっていたとはいえ、くそ暑い夏の中一ヶ月。
どうなっていたかも想像したくない。
でも、今考えるとこの人が見つけて欲しくて、自分に訴えかけていたのでは?と思った。
でも、あんなことされると…ねぇ?無理じゃぁないと思いませんか?
〈終わり〉