「はい、お願いします」
男はそう言った。幼馴染の親友だったそうだ。9歳の夏行方不明になるまではであるが
「私が何か思い出せば、きっと見つかると思うんです」
「なぜ、今頃になって?」
「最近、夢に出てくるんです。聡が、ニコニコと笑って・・・・」
「なるほど・・・・ね」
「きっと、私が何か知ってるはずなんです!」
「・・・・わかりました」
カウンセリング技術は、2000年を境に大きく変化した。喪失した際の環境、つまり、匂い・温度・音などを再現し、適切な誘導質問を行うことにより失った記憶は完全に蘇る私は、その40歳の男にいつものように記憶蘇生術を施した。
30分後、男は泣いていた
「聡を・・・殺したのは私だったんですね」
「はい、些細な動機ですが、子供にとっては大事な理由だったんでしょう」
「私は、そんな恐ろしいことを忘れ、今まで生きていたんですか・・・・」
「ええ」
「私は、異常者なんですね・・・・、自首して・・・・罪を償います」
「それは自由ですが、その必要はないと思いますよ」
「ええ?」
「驚かれるとは思いますけどね、40年も生きてこられたんでしょう?健全な人間なら、人の一人や二人は殺してますよ、社会生活してるんですから当然のことです」
「・・・・ええ?」
「大体の人は、殺したことを忘れてるだけなんですよ。人間は都合の悪い記憶は綺麗さっぱり忘れる動物なんです。
だから殺人しても忘れてる、それは普通のことなんです。あなたが異常な点はその忘却記憶が蘇りかかった点です」
「・・・・」
「さて、どうしますか?記憶を封印することはできますよ、それともお帰りになりますか?」
「・・・・お願いします、2度と蘇らないようにしてください!」
男は帰っていった。助手がけだるそうに欠伸をして、私に話しかけた。
「先生、通報した方がいいんじゃないですか?」
「何を?」
「あの人、これで15人目ですよ、奥さんや子供さんまで殺害してますし、ちょっとやりすぎじゃないですか?」
「知らんよ、そんなこと。俺はカウンセラーで刑事じゃない、それに守秘義務がある」
「そうですかぁー。でも、ここに来たことだけは綺麗に忘れるんですよねぇー」
「そういう習慣なんだろ、やばくなるとここに来ればいいって無意識で思い出すんだ。別にあいつだけじゃない」
「ふふふ、先生にカウンセリングをしたらどうなるんでしょうね?」
「そういった助手が過去いたような気もするが忘れちまったよ、だからやめとけ」
助手は少し目を見開いて、ふうと一息ついて、ランチのために部屋を後にした
思い出すってのは、色々な意味で危険なことだがそれを知っている人間は意外に少ないものだ
”知らぬが仏、過去を振り返らず、忘れてろ”、俺は皆にそういいたい