東京タワーには40年以上行っていない
幼稚園の遠足で連れて行かれて、ひどく怖い思いをしたからだ
バスの窓から東京タワーを見たとたん、私はゾッと戦慄した
何故か強烈に戦車=戦争=死のイメージに襲われたからだ
タワーの館内は薄暗くて(不自然なほど暗かったと記憶している)
鉄さびと土埃の不吉な臭いがした
展望台行きのエレベーターに押し込まれると、私は恐怖で泣きそうになった
エレベーターが上昇するにつれ、胸騒ぎと動悸はどんどんひどくなる
まるで死刑台へ続くエレベーターに乗せられているような気分だった
エレベーターの扉が開いた先に何があったのかは、全く覚えていない
凄く怖かった、死にそうに怖かった……、覚えているのはそれだけだ
あまり怖すぎて記憶が飛んでしまったのかもしれない
私は病弱で神経質な子供だったが、とくに霊感が強いわけではない
東京タワーに脅えた理由が分からぬまま、この時の経験がトラウマになり
これまで東京タワーの話題には関わらないようにしてきた
そのせいか、もしかしたら周知の事実かもしれないことを、私はつい最近知った
東京タワーの展望台には、米軍が使用した戦車が鋼材として使われていたらしい
私が東京タワーに行った時は、竣工から10年ほどしか経っていなかったから
鋼材もまだ生々しく戦場の臭いや気配を引きずっていたのだろうか
腺病質な子供の鼻がたまたまそれを嗅ぎ取ったのかしらと
今ではそんなふうに思っている