子どものころの話
どんな訳か覚えていないけど、普段ならとっくに帰宅しているはずの時間に道を歩いていた。
日が落ちて暗くなっても街頭も無い、車も一方通行のさほと広くない道。
片側に電柱があった。
電柱の数メートルくらい手前まで来た時、電柱のちょうど目線くらいの高さあたりに何かがあることに気が付いた。
解りづらいけど、本当に「あれ、なんかある。なんだろ」という感じだった。
視界も暗くてびくびくしていたせいか、そのまま近づくのが嫌で、立ち止まってじっと様子をみた。
首だった。
電柱から垂直、つまり横向きに、人間の頭部だけが突き出ていた。
あまりのことに声も出ず、泣くこともできないパニックの中で、それでも子どもながらに必死でどうしようか考えた。
この道を通らないと家に帰れない。回り道をするには夜遅すぎて時間がかかる。
何より、突き出た首から目を離して背中を向けるのが怖かった。
しばらく立ち往生したすえ、できる限り電柱から離れた側を、首から目を離さずに、そろそろ通り過ぎることにした。
首は動く気配も無い。
少しずつ近づいてくる首付電柱。道の反対側に身を寄せながら通り過ぎる。
まんまと首に気づかれずに(当時はそう思った)首の生えた電柱を通りすぎても、首はぴくとも動かなかった。
そのままゆっくり歩き続け、電柱からずいぶん離れても、まだ怖くて走って逃げることもできなかった。
結局、その後なにがあったわけでもなく、翌日昼間には現金にも怖さは失せていた。
首も消えていた。
それだけの話。