これは私が小学生の頃、私自身が実際に体験した……
というよりも、全校生徒・職員が同時に体験することとなった話です。
私の通っていたN小学校には、
高学年生徒による「ボランティアクラブ」なる集団が結成されており、
たまに募金集めなどの活動もしているクラブでした。
ある時、そのボランティアクラブが、
学校近くにあるN病院についての歴史や医療状況などを
全校生徒に知ってもらうという発表企画を計画立てました。
そしてその企画は、数日後に彼らの予定していたとおり
全校集会という形式で実行されました。
発表当日、私たちは体育館に集められました。
体育館内に入った時既に照明は暗転されており、中に入って並んで座り、
近くの友人たちと楽しく雑談をしているうちに暗闇に目が慣れたようで、
ようやく館内の様子が伺えるようになりました。
体育館のド真ん中にスライド写真を転写する装置が置かれており、
舞台上に下ろされたスクリーンを真っ直ぐ見つめていました。
そしてついに(退屈な)発表の始まりです。
内容としては、病院のスライド写真が次々にスクリーン上に映されていって、
ボランティアクラブの生徒が
それに合わせて資料を読み上げるという(よくある)タイプのものでした。
開始後しばらくして、淡々とした資料の読み上げや
スライドの切り替わる音で見事に構成された「1/fゆらぎ効果」により
ウトウトしはじめた私は、突然訪れた周りの生徒たちの騒ぐ声々に目を覚ましました。
私や近くの友人たちは、騒ぎの原因が全くわからず、互いに顔を見合わせていました。
しかしそんな時、誰かが
「おい、アレ!!」
と言って真正面のスクリーンを指差したのです。
私や友人はもちろん、多くの生徒がその声に反応して一斉にスクリーンを見ました。
そしてそこで私たちは、騒ぎの原因にはじめて気付いたのです。
スクリーンに映されたスライド写真の……そう、だいたい右下辺りでしょうか。
そこには無表情な坊主頭の青年の顔面部分だけが
浮かび上がるように写りこんでいたのです。
昭和風の感じの顔つきで、心霊写真にしてはあまりに濃く、
輪郭もハッキリとしていました。
また、悲しんでいるようにも見え、笑っているようにも見え……
とにかく、確かにその顔はその写真の右下に写りこんでいたのです。
しかし騒ぎはすぐに治まりました。
誰かがこう言ったのです。
「なんだアレ、変なの!どうせクラブの奴らの仕込だろ!?」
確かに彼の言うとおり、それはあまりにわざとらし過ぎる心霊写真でした。
そして多くの人がその彼の考えに賛成し、
皆が皆クラブの仕込であると考え始めたのです。
そしてその安心感と脱力感から、今度は全校生徒が一斉に笑い始めました。
教員たちは皆の笑い声をやめさせようと必死でした。
しかし笑い声は教員たちの望みどおり、一気に消えうせることとなるのです。
それはスクリーンのスライドが次の写真に切り替わった時です。
なんと次の写真にも、全く同じ場所に「その人」が写っていたのです。
そして私を含む多くの生徒が「ある事」を見てしまいました。
スライドというのは写真が切り替わる瞬間、必ず間にわずかなブランクが空きます。
そして「その人」は……そのブランクの間もそこに「いた」のです。
そう、それはスライドの中の写真ではなく、
本当にスクリーンに浮かび上がった顔だったのです。
生徒たちはあまりの出来事に戸惑い、声を発することも出来なくなってしまったようで、
耳が痛くなるほどの沈黙が館内を包みました。
そんな中、教員のひとりが動き始めました。
彼は急いで体育館の中心に行き、スライドのスイッチを切りました。
しかしその顔はまだスクリーン上にありました。
今度は別の教員がスクリーンを片付けるため、スイッチを切りに舞台袖に走りました。
やがてスクリーンは低いモーター音の唸りをあげ、舞台の天井にしまい込まれて行きました。
しかしその間も、顔はスクリーンの流れに動じず、
ずっとその場所に浮かび続けているのです。
それはまるでテーブルクロス引きをスローモーションで見ているような光景でした。
しかも最終的にはスクリーンは完全に天井に上げられたというのに、
顔だけが舞台上に青白く浮かび上がっているのです。
そして痺れを切らした教員が、
怒り狂うように蛍光灯のスイッチを叩いて館内の照明をつけました。
明るくなった館内にはいつしかざわめきが蘇っており、
恐怖に泣きじゃくる女子生徒の声などの声が聴こえました。
そして舞台からは顔は消えており、いつもの舞台がそこに口をあけているだけでした。
あの顔は結局何だったのでしょう……。
今でもあの顔を鮮明に思い出すことができます……。