そんなこと関係ないくらいヤバイことがたくさんあった。
俺の担当の病棟にシズって祖母ちゃんが入院してて、その祖母ちゃんが
半身不随でほぼ寝たきりなんだけど
嫁さんの多香子さんて人は毎日毎日見舞い来てた。シズさんは痴呆も進んでて、
嫁さんが誰かすらわかんない状態だった。
それでも多香子さんは毎日来てて、俺たち職員も良い嫁さんだなーって思ってた。
美人だったし余計に。
でもあるとき、シズさんの部屋(個室)に体温計忘れてきたのに気付いて部屋に行ったとき、
俺は見ちゃいけないものを見た。
「はーい、あーんして?あーんは?」
多香子さんがシズさんに何か食べさせていた。邪魔しないように、あとから出直そうと思ったけど、
多香子さんが持ってるものを見て動けなくなった。多香子さんがシズさんに食べさせてたのは、
どう見ても使用済みのスポンジを細く切ったものだった。いくらボケてるとはいえ、
シズさんは口をあけない。
そしたら多香子さんは
「おーいクソババア?口開けろよ?」
と言って、割り箸をシズさんの口にねじ込んで無理矢理開けさせて、スポンジを押し込んでいた。
それ以上は見てられなかった。俺は走って婦長に知らせに行ったが、
「わたしたちは何も知らないのよ。」と言われた。要するに他言無用、忘れろってことだ。
婦長たちも前から、多香子さんによる虐待に気付いてたんだ。
俺はそれがすごく怖かった。美人で優しい出来た嫁さんだった多香子さんの、あのすごく
楽しそうな歪んだ表情より怖かった。
でも、この話には続きがある。
それから半月もしないうちに、シズさんが亡くなったんだ。死因は誤嚥性肺炎だった。
誤嚥性肺炎てのは、食物あるいは食物以外のものを誤って飲み込んで起きる病だ。
俺は多香子さんのせいに思えてならなかった。
しかし、シズさんの引取に多香子さんはいなかった。なんでだろう、と思っていると
シズさんの息子さんが話し掛けてきた。
「先日、妻も亡くなったばかりなんです」と。息子さんも理由は言わなかったが、
俺はなんとなくシズさんの復讐のような気がしていた。
シズさん、ボケてなかったんだ。全部演技だったんだ。遺品から出て来たシズさんの日記に、
多香子さんから受けた虐待が全部細く書いてあった。
唯一動く右手で必死に書いてたみたいだ。そして、最後のページを見た時、俺は本当に怖かった。
「多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね多香子多香子多香子多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
ひたすらそう書いてあった。文字は震えることなく力強く書かれていた。
人間の執念に心底恐怖した。
そして、ひとを呪わば穴二つ、って本当なんだと思った。
霊的な怖い話じゃなくてスマン。でも本当に洒落にならない怖い体験だった。
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