正確な時節は覚えていないが、おそらく冬だったような気がする。
ちなみに当時の俺は怖いものが極端に駄目で、映画学校の怪談とかで泣く位に駄目だった。
当然夜が嫌いで、部屋が真っ暗だと怖くて寝れないビビり小僧だった。
幸運だったのは、俺は三人姉弟の末っ子で、三人とも同じ部屋で寝ていたことである。
さておき、夜も更けた頃、ふと遠くから聞こえてくる音に俺は目を覚ました。
いや、今となっては音で目を覚ましたのかその時偶々目が覚めてしまったのかはわからないが。
それは何かの金属のような音だった。
――シャン
――シャン
――シャン
当時の俺にはちょうどタンバリンの音に聞こえた。
それだけならなんということはないのだが、その音は、段々と近づいているような気がした。
――シャン
――シャン
気のせいではなく、間違いなく近くなっていた。正体不明の音に俺は怖くなった。
泣きそうになって寝ている姉を起こそうと思ったが、恐怖で身体が硬直していて声も出せなかった。
――シャン
――シャン
およそ二秒おきに、断続的に鳴る音は、明らかに近づいている。
音は、家のすぐ傍まで来ていた。俺は窓の外を覗こうかと一瞬思う。
シャン
――シャン、シャン、シャン……
離れていく音が聞こえなくなるまで、俺は布団の中で震えていた。
その日、怖くていつ眠りについたか覚えいていない。
翌日起きて、同じ部屋で寝ていた姉にその話をしても、そんな音は聞いていないと言う。
両親に訊いてみても、答えは同じだった。
だが誓ってもあれは夢などではなかった。
「シャン」という音が耳から離れず、俺はそれから数日寝るのが怖くなって姉の布団に
潜り込んだりしていた。
……ここまでなら良かったのだが。
数年後、俺はまた恐怖することになる。
で、その当時流行っていた某少年誌の漫画がある。
妖怪とか霊とかが出てくる漫画だ(って分かる人は分かると思うが)。
姉がコミックスを買っていたので、俺もよく読んでいた。
で、その漫画の何巻か目、とある妖怪の話がある。
錫杖を持った僧侶姿の亡霊の集団がいて、一人が成仏すると、
誰かを殺して集団に取り込んでしまうのだとか。
迷惑な亡霊だなぁと思いながら、俺は話の終わりにある妖怪の説明コーナーに目を通していた。
すると、なんと目撃証言があるという。本当にいたらマジ怖いなおい、と思いつつも、興味津々に読む。
目撃された地名を見た瞬間、俺は半笑いで固まった。
○○県○○市
それらのキーワードが、俺の眠っていた記憶をよみがえらせた。
『シャン』
顔がサーッと青くなって、あの時の、あの音が、耳に響いた気がした。
その時の戦慄は今でもはっきり覚えている。
もし、あの時窓の外を覗いていたらと思うと……。
考えただけでも、未だに寒気がする。
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