怖い話

【恐怖体験談】桜の木の下に眠る友人

530: 1/10 2010/04/02 02:52:04 ID:KLj3yh2Q0

20140108a

 

桜の咲く季節になると思い出す。


俺は、小学校からの悪友3人とよくつるんで、高校生になっても遊んでいた。
A,B,Cの悪友3人と俺、そしてもう一人、同じく小学校からの付き合いがある
さくらって言う女と。
さくらは俺らの中では、アイドルって程羨望の存在ではなかったが、他に
女の子との付き合いも無かった中、そこそこ清純で可愛らしかったことも
あって、「付き合いたい」という思いが全員の中に有りつつも、それを
どこかお互いに悟られまいとしていた。そんな歯がゆい関係だった。

高校3年の夏、俺ら5人は夏祭りのあと酒を買い、近所の公園で飲んだ。
酒の勢いもあってか、話題はいつしか「肝試し」になっていた。
近くの林の中には塚があり、塚の前で手を合わせると、恐ろしい姿の女が
現れ、女の姿を見た者は発狂するという、他愛もない噂が当時、半ば伝説の
ように伝播していたからだ。

531: 2/10 2010/04/02 02:53:33 ID:KLj3yh2Q0
「行ってみようぜ。俺らでさ」
当時、一番悪ぶっていたCが切り出した。お調子者のBは気のせいか、いつもの
元気がなく「やめよう・・・」と子犬のような顔でCを見る。
文武両道、正義感も強い俺らのヒーロー、Aは乗り気なようで、さくらに
「お前どうする?帰るか?」と気遣いも見せていた。

俺はといえば、さくらも一緒に行って、俺の肝が据わっていることを見せつけ、
好意を寄せてくれれば幸い、と当時皆が思っていたであろうことを考え、
Aの問いかけに首を振るさくらの姿を期待していた。

「私も行く!あんた達だけじゃ不安!」
さくらも同行の意思を示し、俺達は林へ向かった。あんなことになるとも知らず。

532: 3/10 2010/04/02 02:54:46 ID:KLj3yh2Q0
林を分け入って黙々と進んでいく。酒の力も徐々に薄れ、口数が少なくなっていく。
幸運にもさくらは俺の隣を歩いており、俺のシャツの袖を引っつかんでいた。
夜の林は月の光と、Aの照らす懐中電灯のか細い光が頼りだったが、程なくして
噂の塚に辿り着いた。

「ここで手を合わせる、んだっけ?」
Cはまだ酒が抜けていないのか、恐怖を表に出すまいと強がっているのか、
普段見せないおどけた様子で塚に近づく。Bは既に顔面蒼白で「帰ろう・・・」と
Aと俺の顔を交互に見ている。Aはつとめて冷静を保とうと、周りを注意深く
観察していた。
さくらは相変わらず俺のシャツを掴んでいたが、もはやシャツが引きちぎれんばかりの
力で、シャツを持つ手も心なしか震えていた。

「わあああああ!!!!!!」
Bが物凄い声で叫んだ。途端、俺たちは恐怖と緊張のピークを超え、脱兎の如く
散り散りに逃げ出した。誰がどう逃げたか、どこをどう走ったかも覚えていない。
ただ、闇雲に転げ周りながら走った。

533: 4/10 2010/04/02 02:56:12 ID:KLj3yh2Q0
林からどうにか抜け出すことができた俺。公園に帰り着きしばし呆然としていると
少し遅れてAが戻ってきた。

「他のやつらは?BとCとさくらは?一緒じゃないか?」
Aにきつめの口調で問われ、一人で逃げてきたことを後悔しつつも、会っていないことを
伝える。Aは舌打ちをすると、一緒に探しに行くよう俺に求めた。
だがさすがのAも怖かったのか、懐中電灯を落としてきたという。公園から一番家が近い
俺が、懐中電灯を取りに戻り、その後再度、林に入ることとなった。

家から懐中電灯を持って、公園に戻ったときには、Cも公園に命からがら辿り着いたところ
だった。Cも俺と同様、Bとさくらは見ていなかった。更に、探しに戻るのも嫌だと言うC。

「言いだしっぺはお前だろ!」AがCを睨み付ける。

Cはばつが悪そうに、「悪かったよ・・・」とAに詫び、続けた。
「でも、俺見たんだよ。女みたいな影がさ、塚の後ろから出てこようとしてんのをさ・・・」
普段悪ぶって、俺らを鼻で笑う態度のCはそこになく、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「女が顔を上げようとしたとき、Bが叫んだから『やべぇ!』って思ってさ・・・」

それを聞くと、俺も先刻の光景を思い出し、行くことが躊躇われた。

534: 5/10 2010/04/02 02:57:09 ID:KLj3yh2Q0
行くことを拒むC、行って2人を探すことを主張するA、どっちつかずの俺。
3人が膠着状態となっていた時、土まみれのBがとぼとぼ歩いてきた。息は乱れ、Tシャツは
伸び、あちこちから血も出ている。

大丈夫か、と駆け寄り、さくらは、とBに問いかける。
Bは泣きながら「わかんない」と答えるだけだった。

それぞれの親に事情を話し、警察にも連絡して、その日の夜は町内総出でさくらの捜索が
行われたが、行方はわからなかった。件の塚周辺も重点的に捜索されたが、手がかりさえ
何も見つからず、その後何週間にもわたって捜索は続いたが、さくらは見つからなかった。

俺らも自発的に毎日、林に集まってはさくらを探した。1週間もするとある程度の覚悟は
できていたが、「さくらを探す」のであって「さくらの亡骸を探す」のではない、と
自分に言い聞かせ、探し続けた。

さくらが見つかったのは翌年の春、桜の咲く頃だった。

536: 6/10 2010/04/02 02:58:23 ID:KLj3yh2Q0
さくらは林の出口付近で、白骨化した状態で見つかった。衣服と持ち物からさくらだと
確認された。くまなく探したはずなのに、なぜ見つけてやれなかったのか。俺らは
悔やみながら、葬儀に参列した。

さくらのご両親は、俺らの事を決して悪く言わず、娘の良き友達として接してくれた。
それがどれ程辛いことか、当時の俺らにも痛いほどよくわかっていた。
Aはご両親に深々と頭を下げ、俺らが事前に決めておいた、さくらの弔いの為のお願いを始めた。

「さくらさんのお骨を、分けて頂けますか・・・?」訝しげにAを見るご両親。
「5人でよく遊んだ公園の、桜の木の下に埋めてあげたいんです」俺が続ける。

「気持ちは分かるけど、お寺さんに相談しないと・・・」ご両親が戸惑っていると、
やり取りを聞いていた住職が「ご家族がお許しになれば、いいでしょう」と許可してくれた。

俺らは葬儀のあと、泣きながらさくらの一部を、満開の桜の木の下に埋めた。

539: 7/10 2010/04/02 03:02:14 ID:KLj3yh2Q0
俺らは進学、就職と別々の道を歩いた。俺とAは進学、Bはフリーター、Cは就職した。
それぞれが忙しく日々を過ごし、さくらの忌まわしい出来事は考えないようにした。
もちろん、何かの折には公園を訪れ、桜の木の下で座りながらさくらのことを考え、
語りかけたりもした。自分勝手だが、さくらとの綺麗な思い出だけを考えていた。

翌年の成人式。久々に4人で顔を会わせ、近くの居酒屋で昔話に花を咲かせた俺ら。
酔いが回り始めた頃、Cが唐突に言った。

「さくらに会わないか?」

Aが過敏に反応した。「お前、よくそんなことが・・・」
慌ててCが釈明する。「いや、公園に行こうって言ってんだよ!」

Bはあの時のように、あまり乗り気ではなく「ゆ、幽霊にでもなって出てきたらどうすんだよ・・・」
と怯えている。CはBの背中を叩き、さくらなら幽霊でも会いたいだろ、と笑って言った。
Cなりに、あの出来事にけじめをつけようとしていると思った俺とAは、公園に行く事に同意した。

540: 8/10 2010/04/02 03:03:43 ID:KLj3yh2Q0
4人で公園に来るのは、さくらを埋めたあの日以来だった。
夜風が酒で温まった体を容赦なく冷ましていく。桜の木の幹は冷たく、春の訪れを遠く思わせた。

「さくら、会いてぇよ・・・」

Cが呟いた。ずっと好きだったのに、と続けた言葉に、全員が頷いた。皆が言いたくて言えなかった
言葉だ。俺もだよ、とAが、俺が言う。いつまでも好きだ。Bが言い、誰ともなく手を合わせた。

「ひいいいいいい!!!!!!」

あの日と同じように、Bが叫んだ。桜の木の後ろから、あの日のさくらが、あの日の姿でゆっくり
現れた。あの日と違うのは、憤怒の表情と、体全体を覆う痛々しい生傷、そして、股間からの
夥しい出血だった。
さくらはゆっくりと俺らの方に、Bの方に近づいていく。Bは腰を抜かし、口からは泡を吹いている。
俺、A、Cは金縛りにあったように、その場を動けずにいた。

542: 9/10 2010/04/02 03:05:19 ID:KLj3yh2Q0
「許して、許してぇ!!」Bが震え、上ずった調子外れの声をあげる。さくらはBの目の前まで来ると、
Bの中に入り込むようにスッと消えた。

途端、Bが物凄い勢いで嘔吐を始めた。ガックリと膝を折り、うつ伏せて吐く。血も混じっていた。
吐き終わると、今度は口を滅茶苦茶に動かし始めた。Bの口からは血と汚物がとめどなく流れた。
舌と口の内側を食い千切っていると気づいたときには、Bの体は痙攣し、Bは呻き声を上げながら
白目を剥いていた。

ようやくBの元へ駆け寄った俺らの頭上で、「ごめんね」という声が聞こえた。

見上げた先には、きれいなままの姿のさくらがいた。
うっすらと涙を浮かべ、さくらは消えた。

「さくら!行くな!」Aが叫んだ。Cは倒れているBの元へ駆け寄り、瀕死のBを更に殴りつけた。

「お前が!お前がぁ!なんてことを!」Cは泣きながらBを殴り続けた。俺はそれを止めることも
できなかった。

543: 10/10 2010/04/02 03:08:47 ID:KLj3yh2Q0
Bはその後救急車で運ばれ、何とか一命は取り留めたが、口内と内臓に重大な損傷があり、
顔の骨も折れていた(これはCが殴ったせいだったが)。そして何より、精神に異常を来たしており、
傷が癒えた後は精神病院で暮らすことになった。
CはBの怪我の責任を全て負うこととなり、傷害罪で逮捕されたが「酔った勢いでの喧嘩」扱いで
罰金刑となった。

春になり、俺とAは公園を訪れた。さくらは無事に天国へ行けただろうか。
そんなことを考えていると、Aが言った。
「さくらは、強かったな・・・」

「あの日、塚の後ろから女が出てきたとき、俺もびびって逃げちまったけど、振り返ったとき
俺見たんだよ。
さくらが逃げ遅れたBをかばってる姿を。それなのにBは、そのあとさくらを・・・」

Aの言葉に言い知れぬ悲しさと空しさが滲んでいた。俺は桜の木に手を合わせて祈った。
どうか、さくらが天国で幸せに暮らせるようにと。

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