マセラティおじさんとまた会ったのは、秋が終わり冬にさしかかろうとしていたときのこと。
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マセラティおじさんとまた会ったのは、秋が終わり冬にさしかかろうとしていたときのこと。
 ほぼ毎日と言っていいほど進学塾に通いづめだった僕は、その日も同じように進学塾から家路に向かって歩いていた。 
 前に襲われた道から帰れば、一番早く家に着くのだが、トラウマのせいか何が何でも通らないように決めていた。 
 回り道になるにもかかわらず、比較的明るく、また人や車の流れがある道を選んで帰っていた。 
あの事件の後、数日後たってから、1度だけどうなっているのか確認しに行ったことがある。もちろん日が沈む前、それも友達と一緒にという条件つきで。
 まるで事故った形跡がなかった。たしかにここで事故ったのは間違いないはずなんだが…。 
 マセラティはなくて当たり前だが、飛び散ったフロントガラスの破片すら見つからない。 
 垣根にも穴はなかったし。電話ボックスも、やっぱりなかった。 
 ただ、あるがままの光景がそこにはあった。 
 あそこは異次元だったんだろうか? 
 今度、おっさんが現れたら聞いてみよう。そう思った。 
 場面は今へと戻る。突然音が聞こえなくなった。 
 さっきまで聞こえていた犬の吠える声もピタリと止んだ。とうとう来た。 
 自分の呼吸音だけがしっかりと聞こえる世界。背中からじんわりと汗が滲み出る。 
 おっさん頼む!早く来てくれ…。 
 すると、どっかからエンジン音が聞こえた。 
 おっさんがやってきたのだ。そして車は、あのマセラティだった。修理に出したのかきれいに直っていた。そして僕の横に車を停める。 
 「おい、挨拶はいいから乗れ。奴が来る。」 
 僕はあわてて助手席に乗った。左ハンドルなので、少しだけ戸惑ってしまう。 
 おっさんも僕がシートベルトを締め終わらないうちに発車した。 
 よく見るとドアのところにお札が貼ってある。   
おっさんは、あるものを探していたとだけ言い、しきりにドアミラーで後ろを確認している。
あるものとは、呪いをかけたり、またかけた呪いが呪い返しにあった場合、その呪いの身代わりになる物のことらしい。
具体的に言うと、髪や爪といった身体の一部を身代わりとして入れ、呪いを中に閉じ込めるための木箱である。
僕にかかっている呪いは、膨大な年月を経て弱っているものの、そこらへんの木で作った木箱くらいじゃ封じ込められないほど強力なんだとか。
 だから、おっさんはまず呪いに耐えられるだけの神木をずっと探してたそうだ。 
 そして作る木箱も、釘を使わず複雑に組んだ特殊なものでなければならないとのこと。 
 それを作るのがまた厄介なようで。 
 「もしあの呪いが弱ってなかったら、どのくらいの威力なんですか?」 
 我ながら恐ろしい質問をしてみた。おっさんの横顔からは長い睫毛をたくわえた目が見えた。その目がドアミラー、僕、前方という順で動いている。 
 「あまり俺も詳しいことは分からないが、それこそ千は殺されてただろうね。」 
 震える僕を見て、おっさんはにこやかに笑い、あれよりもっとヤバい呪いもあるから大丈夫だよと付け加えた。 
 今思うとフォローのつもりだったのだろうか?全然フォローになっていなかったが。 
 「来た」そう呟くと、おっさんは一気にスピードをあげはじめた。 
 エンジンがうなり、速度計の針が動きはじめた。それにつられて心臓がバクバクも言い始める。 
 見たくなかった。が、僕は不可抗力でドアミラーを覗いた。 
いた。
はるか後方にそいつが見えた。地面から浮いたところに立っている。そしてそのままの状態で、滑るように僕たちを追いかけてきているのが分かった。
ガチャン。
 全部のドアにロックがかかる。 
 重たい空気。重圧感のある緊張が走る。 
 おっさんも真剣なのか、黙ったままハンドルをさばく。とにかく居心地が悪かった。   
曲がる寸前でスピードを落としているとはいえ、とんでもない速度だ。
しかし、それでもそいつはピッタリと付いてきていた。しかも差は開くどころか、どんどん近付いているのだ。
 数十分も走らすと、だんだん疲れてきたのか、おっさんの運転が荒くなりはじめた。 
 見ると、おっさんの顔には汗が。初めて見た。この人でも汗かくんだ。そう思った。 
 …と同時に僕は、みるみる不安になる僕。 
 ドアミラーを見るたびに、そいつはどんどん距離を縮めていた。 
 だめだ、このままじゃ逃げ切れない。絶望的だった。心臓が今にも張り裂けんばかりだ。 
 「おい、次曲がったところで運転代われ。」 
 当時、中2の僕にとっては、あまりにも酷な命令に思えた。 
 「大丈夫。ハンドルを持つだけでいい。とにかくど真ん中を走らせろ。いいな。簡単だろ?」 
 ためらってる時間はなかった。やりたくないけど、やるしかない。僕は頷く。 
 おっさんは次の角に勢いよく突っ込んだ。ほとんどドリフト状態で、ものすごいGで身体が「く」の字に倒される。 
 ハンドルをしっかりと持つ手に、じっとりと汗が滲む。 
 いくら見晴らしのきく直線道路のど真ん中を走っているとはいえ、もし運転操作をあやまったら…。そう考えると腕がブルブルと小刻みに震える。 
 おっさんはシートベルトを外し、窓から身体を乗り出すと、しきりに何か呟いていた。 
 その窓から容赦なく吹き込む冷たい風の音にかき消されて、何を言っているか聞こえはしなかったが、例の呪文を唱えているようだ。 
バン!
 前に聞いた爆竹のような音がこだまする。 
 おっさんは一仕事終えたような顔つきで、顔を車内に引っ込めると、パワーウインドウで窓を閉めながら「よくやった」と頭をなでなでしてくれた。   
あたりは人が歩き始め、車が道を走り始めた。元のあるべき世界に帰ってきた。
おっさんは、僕を家のすぐ近くまで送ってくれた。なぜ僕の家の場所を知っているのか?謎ではあるが、あえて聞かなかった。
どうせ「式神だから」とか言われるのがオチだし、マセラティのナンバープレートを
調べることで正体を突き止められると思ったから。
代わりに、今度おっさんに会ったら、聞こうと思っていたことを聞いてみる。
「さっきの音がない世界って何なんですか?」
 そしたら「今の世界が『在る』ことを誰も証明出来ないし、さっきの音のない世界が『無い』ことも誰も証明出来ない。分かるかい?在るか無いかは問題じゃないんだよ。」 
 と、かなり哲学的なことを言われた。要するにおっさんでも分からないみたいだ。 
 車から降りると、すかさずナンバープレートを頭の中に控える。 
 よし!完璧。完全に暗記したナンバープレートを忘れないように暗唱しながら、僕はおっさんに別れを告げた。 
 エンジンを吹かし、まさに発車する瞬間のことだった。おっさんは、何か思い出したかのごとく口走った。 
 「あ、そうそう。1つ言い忘れてたよ。僕のこと調べようと思ってもやめときな。 
 時間の無駄だから。なんかナンバープレート見てたから一応言うね。 
 ナンバープレートなんか調べても『在る』わけないよ。この車は『無い』世界にあったやつなんだから。」 
 そう言うと、マセラティはあっという間に夜の闇に消えてしまった。 
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