その土地は海に面し風光明媚な町でした。
しかし市の中心産業(会社)が衰退をし、寂しさも感じる町になりつつある、そんな頃だったと思います。
”家族4人が住める”・・・そこそこの物件を探すために数軒の不動産屋をまわりましたが、納得できる物件には行き当たることが出来ませんでした。
「・・・こんなのもあったんですが・・・」
見ると3LDK4階建て、築10年位。
間取りも家賃も問題なし。
なんで今まで出さなかったの?
当然見に行き、最後のこの物件に決めました。
少々幽霊騒ぎには強気でしたが。
噂が本当だと知るにはあまり時間は掛かりませんでした。
それから2週間後。
引越しの荷物が到着し、私が部屋で荷物片付けをしている時の事でした。
なんとゴミ箱の中に女性の顔がポッカリ浮かんでいるんです。
・・・?
すーっと消えました。
そして直後またその顔が窓の外を下から上にゆらゆら浮かびながら昇って行ったのです。
・・・?
幽霊の噂があるところに入ってすぐでしたから、女房にはすぐにはこの事は話しませんでした。
しかし、すぐにその日はやってきました。
子供が騒いでも周りに迷惑が掛からないと思いまして。
30世帯入居可能なところに、私たち家族が入居してもやっと8世帯と、大変寂しい静かな環境でした。
女房は専業主婦なので私と子供を送り出してからはアパートに一人でした。
越してから10日位たった頃だと思います。
部屋に一人でいると下駄の足音で下から階段を昇ってくる音が聞こえ、家の玄関前で止まる。
家の真上の階で、いわばハイヒールでコツコツと歩き回るような音が聞こえる・・・。
確か上は空き部屋だし、それに各部屋は畳だったし・・・。
じわーっと怖くなったと会社から帰った私に堰を切ったように話しました。
実は・・・と私も引越し当日の出来事を話しました。
噂は本当だったのか・・・。
3年前に同じ会社の人もここに住んでいたことがあって、夜中帰ってドアを開けたらそこに防空頭巾をかぶった女性がぼーっと立っていたのに遭遇したことがあることを聞いたのはしばらくたってから。
タクシーの運転手から聞くと、この場所は戦争中に艦砲射撃を受けて多数の死者がでた所で、そこの近くにある30メートル以上の観音様は供養の為に建てたということ。
怖かったことはその時くらいで終わったと思いますが、我々の霊感が乏しく、気が付かなかっただけのことだったのでしょうか。
転勤稼業のため8回程引越しを繰り返しましたが、後にも先にもこの一回だけの体験でした。