そんで危篤の際に会っていた自分が留守を任されたんだ。
その時不思議な夢を見た話をさせて欲しい。
花合わせって言うんだっけ?
婆ちゃんは一人花札が好きだった。
でも花札=ギャンブルだから子供の前でするものじゃないと思ってたのかな。
私に気付くといつもさっと手の平で隠していたんだ。
バレバレだったけどなw
その時の夢でも婆ちゃんは花札で遊んでいて、私に気付くといつものように札を隠したんだ。
私は何故かこれを夢だと気付いていたし、婆ちゃんがボケて寝たきりになってから何年も見なかった光景を懐かしいとすら感じていたよ。
例え夢でも楽しみを邪魔したくなくて、「婆ちゃん、私はもう大人になったんだよ。堂々と遊んで良いんだよ」って言ったんだ。
けど婆ちゃんは予想に反して急に怒り出した。その顔ったら生前でも見た事のないほど険しい形相だったよ。
「いいから見ちゃいかん!」の一点張りで、私に決して札を見せなかった。
そして何故かも分からないで困惑してる内に目が覚めた。
夢自体はこれでおしまい。
この時は婆ちゃんの事を考えてたから夢に見たんだろうな・・・しか考えてなかったよ。
それから一年経ち、母と二人で婆ちゃんの一周忌に向かった。
親族達と婆ちゃんの話に花を咲かせていた時に、話のタネ程度の気持ちで葬式の日に見た夢の話をしたんだ。
ほとんどの人は笑ってたんだけど、その時一人の叔母さんの驚いて声をあげた。
棺桶の中に花や故人が好きだった物を入れたりするよね?
婆ちゃんも多分に漏れず、母や叔母さん達で胸元に大好きだった花札を並べてやったらしい。
一晩が経ち、火葬の前の最後の対面・・・という所で不思議な事があった。
確かに胸元に置いてあった花札が、数枚無くなっていたんだ。
棺桶の脇に落ちてる訳でもないし、そもそも消えた花札よりもアンバランスに置かれてた品々だってあったのに、それらは微動だにしていない。
叔母さん達は首を捻らせたんだけど、一足先に婆ちゃんが遊ぶために持って行ったんだろうって事で納得したとか。
叔母さんが話してようやく、母を含め他の人達もそんなことがあったと驚き始めたんだ。
もちろん私はそんな事があったなんて知らなかったし、所詮夢だからと人に話した事は無かった。「きっと留守番してくれてた私ちゃんにも挨拶に行ったんだねぇ。花札はもうあっちの世界のものだったから、私ちゃんが連れてかれないように見せなかったのかもねぇ」と叔母さんが呟いて、しんみりとしたよ。
今もあっちで花札やってるのかな。