釣り雑誌のライターさんから聞いた、という話を友人から又聞きした話です。
それでは。
釣り雑誌のライターさんから聞いた、という話を友人から又聞きした話です。
青梅街道で奥多摩を抜けて、ご存知のおいらん淵のほんの少し手前に川の合流
があります。
一ノ瀬川という支流で、この合流からしばらくの間は、ゴルジュという谷と言
うよりは垂直の崖の間を流れるような川です。
町谷さんという、主に渓流釣りを楽しまれている方が居りまして、「人を寄せ
付けない場所であれば、さぞ魚も釣れるだろう」と、止せば良いの合流から川
に入り竿を出したんだそうです。
ところがさっぱり魚は釣れない。川から出るにも両岸とも高い岩壁、嫌々なが
ら遡行を続けました。
一ノ瀬川にも更に幾つかの支流があり、大常木谷という沢が流れ込んでいます。
釣りのポイントとして実績があり、沢登りでも人気のある川ですが、やはり険
しい場所。滑落などで少なからずの死亡事故が発生している"悪渓"と呼ばれる
沢です。
良いポイントではあるものの、単独行では危険と判断し、この合流には入退渓
できる箇所もあるので、別の川に移動しようかと考えたそうなのですが。
>>176
ほんのりすごくこわい
管狐って使役されるやつしか知らんのだけど、普通に人を化かす話なのかな
丹波山から流れてきた修験者が、一之瀬に管狐を持ち込んだ事で、村人が何人か死んで
しまった。っていう話みたいです。
どういうわけかここから急に魚が釣れはじめる、それも良好なサイズの魚がか
かる。その先は再びゴルジュとなりますが、そのまま一之瀬川を釣り上ること
にしたそうです。
相変わらず釣果は絶好調。途中3mほどの滝があり、ここでこの日一番の良形
を手にして大喜び。更に大物をと滝を越えると、上流に先行者いることに気が
ついたそうです。
竹の和竿を振り、一目で上手とわかる所作ではあるものの、その出で立ちは
スーツにビジネスシューズ、ハンティング帽という異様なものでした。
とは言え釣りの腕前は相当のもので、次々と魚を釣り上げていく。普通なら
徐々に上流へ移動しポイントを変えて行くものですが、スーツの男は全く移動
せず、同じ場所で釣り続けていたそうです。
渓流釣りの場合、先行者を追い越して先へ行くという行為はマナー違反とされ
ているのですが、先行者が移動しないような時は断りの上で、先へ行かせて貰
う事ができます。
町谷さんはかなり不気味だと感じたものの、上流に入らせてもらう為に「こん
にちは、今のは良い魚でしたね」と声をかけました。
その時、スーツの男は町谷さんに背をむけてしゃがんでおり、針でも外してい
る様子だったと。
「尺はあるでしょう。お上手ですね」と続けて話かけたもののスーツの男はし
ゃがんだまま無言。
耳が不自由なのかなと、視界に入るように男の右側へ出ると、男は顔を背けて
町谷さんを見ようとしない。でも、男が何をしているかは分ったそうです。
標本用のガラス瓶に、魚を押込んでいる。
それも一匹二匹ではなく、魚の原型が無くなる位にぎっしりと詰め込まれている。
やはりまともではない、係わり合いになるのは止そうと、「お先に」とだけ言
って男の脇を通り過ぎたそうです。男は町谷さんの動きに合わせて背を向け、
やはり顔を見せようとしなかったそうですが、その間も魚をビンに押込んでい
るようだったと。
10mほど歩いたところで、男が気になった町谷さんが振り返ると、男は居な
くなっていたそうです。両岸は10m近い高さの岩壁、下流には滝と、容易に
脱渓できる場所ではなかったそうですが。
後日、町谷さんは釣り仲間同士の飲みの席で、「奥多摩にこの人あり」と言わ
れる重鎮と会われた際に、このスーツの男の話をしたそうです。
この方は、かなり細い支流や沢に至るまで踏破し、雑誌連載を持ったこともあ
る、奥多摩の主のような方だったそうですが、町谷さんの話を聞き終えると、
「町谷さんも見ましたか‥」
とだけ、呟かれたそうです。
擬態のつもりのスーツ姿とか
お粗末でした。
管狐って妖怪の伝承はあるんだそうです。