大学時代の話だから、ざっと10年くらい前の話ね。
夏休みが終わって、後期の授業が始まった辺り、
学食で数人でダベっていたら、
友人のAが「夏休みに、バイト先でちょっと恐い経験をしたんだけど……」
なんて言い出した。
彼のバイトは、大学の考古学専攻主催の遺跡発掘だったそうな。
俺は、ちょっと遺跡とかに、興味があったから、すかさず
「遺跡ってどこ?」と聞いてみた。
すると、Aは「ん? ああ、銀座だよ」って、さも当たり前の様に答える。
そして「遺跡っていうと、縄文時代とかイメージするだろ?
けど、そういうのはごく一部。
実際は江戸時代のものとかが多いんだ。
それも東京ど真ん中に」なんて言う。
江戸時代でも遺跡なのか……と妙に感心していたら、
Aはやっと本題を切り出してきた。
「それが、銀座にある江戸時代の墓場の発掘だったんだけど、
昔は木の桶みたいのに死体を入れたりするだろ?
そういうのが何個も出てきたんだけど、俺が見つけた桶の
残骸の中に、ぽつんと黒いかたまりが入ってたんだ 」
「黒いかたまり?」
俺は聞き返す。
「自分じゃ判断出来ないから、現場監督みたいな人を呼んで、
『これなんスか?』って聞いてみたんだよ。
で、何だったと思う?」
話をいきなり振られても答えられない。「いや、全然わからん 」
すると、Aはニヤっと笑って「実はな、そのかたまり、
人間の脳みそがミイラみたいになったヤツだったんだよ」
「うへー、気味悪いな!」
「だろ? けど一番怖かったのは、脳みそじゃないんだな」
「と、いうと?」
「いやな、その日の作業終了時に俺を呼んで、さっきの脳みそ
のミイラを持って来させたわけよ」
「ふむ 」
「で、普通のごみ袋にその脳みそを入れるように指示したのよ」
「なに? ごみ袋に入れて持ち帰ったの?」
「ハズレ。そのまま『これ、ごみ集積所に捨ててこい』だって」
「え? 普通ごみ!?」
「ああ、干からびてるけど脳みそだぜ? しかも発掘品。
それを普通ごみにして捨てるんだよ」
「まじかよ……」
「俺は発掘品の脳みそのミイラを、普通のごみ集積所に
出しちゃう、その慣習や神経が一番怖かったな」
それから、友人はごみ集積所を見ると、
「もしかしたら、近くで遺跡の発掘があって、
ミイラがなに食わぬ顔で捨てられているかも……」
なんて考えてしまって、気味悪かったそうだ。
その話を聞いて以来、俺も街を歩いて、高く積まれたごみを
見ると、ちょっと気味悪く感じるようになったんだ。
乱筆駄文、ご容赦を……。