みんな暖かい春を心待ちにしている中で、僕だけは鬱な気分だった。
理由は簡単である。もうすぐ三ヶ月。呪いが、いつ来てもおかしくないからだ。
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【シリーズ物】マセラティおじさん 5/5
 
引用元: ・死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?157
みんな暖かい春を心待ちにしている中で、僕だけは鬱な気分だった。
理由は簡単である。もうすぐ三ヶ月。呪いが、いつ来てもおかしくないからだ。
 その鬱のせいで、バイオリズムが狂ったのだろう。季節の変わり目という煽りも受けて僕は、見事に風邪をこじらせてしまった。 
 大人しく家で寝る羽目に。高熱で、ふらふらだ。寒気が止まらない。 
 僕は、布団にくるまりながらもなお、ガタガタと震えていた。身体が衰弱しきっている。 
 叔父は、一昨日から家には帰って来ていない。 
 冷凍食品を買いだめしておいてよかったと、心底ホッとした。こんな身体じゃ、とてもじゃないが買出しなんか無理だ。 
 もしこんなとき母親がいれば、やっぱりお粥とか消化にいいものを作ってくれるのかな? 
 母親がどんな人なのか分からないまま育った僕は、そんなことを考えながら眠りに落ちた。 
 気付いたら僕は、学校の教室に、たった一人で佇んでいた。 
 なぜか二年の教室ではなく、三年の教室にいた。 
 僕はいったい何でここにいるんだ?そんな疑問は、すぐに絶望へと変わった。 
 そこが音の無い世界だったからだ。僕の大嫌いな世界…。 
 くらっと眩暈がした。呼吸が、どんどんと荒くなる。 
 とうとうこの日が来た。 
 僕は、完全にその場に固まってしまった。目だけ動かすかたちで、周りを見る。 
 教室の蛍光灯は、片っ端から粉々にされていた。 
 かろうじて教壇の上にある一本の蛍光灯だけが、弱々しい光を放っている。 
 黒板の上に掛けられた時計も、ガラスの部分がバキバキに割られ、中の針は握りつぶされたように丸まっていた。 
 教室の窓ガラスも、何者かによって全て割られて、なんとも無残な有様だった。 
 その窓の外は、何も見えない漆黒の闇である。見るだけで吸い込まれそうな暗黒地獄が、教室の外に広がっていた。 
 風もないのに、カーテンが「こっちにおいで」と手招きするがごとく、ゆらゆらとなびいている。あまりの異様な光景に、絶句してしまった。 
 ギュイーン ギュオーン ギュワーン ギュオーン 
 いきなり無機質なチャイムがしたので、身体がビクッと反応し、机にぶつかった。 
 音程が外れ、ねじって歪めたような音。それが、学校中に鳴り響いた。   
滑舌が悪い校内アナウンスが流れる。明らかに人間の声じゃない。
 やばいやばいやばいやばい… 
 もう完全に頭の中がパニックだった。汗が、ポタポタと床に落ちる。おっさんは一向に現れる気配がない。 
 時間にしておよそ数分。自分には何十時間にも感じられた。 
 ふいに人の足音が聞こえた。それに混じって、男と女の言い争う声。 
 どんどんこっちに向かってきているのが分かった。おっさんなのか?それとも…。 
 人の声ではあるが、明らかに二人いる。逃げようにも、すぐそこまで声が迫っていた。 
 心臓が爆発しそうだ。そして… 
 「あ、いたいた。やっと見つけた。」おっさんが廊下から教室を覗き込んでいた。 
 「二年の教室にいないから探すのに苦労したよ。」 
 肩の力が抜けるのが分かった。思わず安堵のため息が出る。久しぶりに見るおっさん。 
 「もう君とは会わないようにしよう」と言われて以来、全く会っていなかったので、懐かしかった。 
 「探すのに苦労したのはこっちの台詞よ。」と、女性の声。おっさんの背後に、その声の主と思わしき人が見えた。 
 すらっとした身体に、パリパリの黒いパンツ、そして黒いライダースジャケット。肩までかかるさらさらの髪。 
 蛍光灯の明かりが廊下まで届かないので、顔までは見えなかった。 
 「あんたさ、ケータイくらい持って行ったらどうなの?」その人が、おっさんに怒鳴っている。 
 「使い方が分かんねぇんだよ。」おっさんは、そう言いながら僕のもとにやって来た。 
 間近で見るおっさんは、実に頼りなさそうだった。 
 頬はこけて、髪が乱れている。無精髭もうっすら生えていた。声もどこかしら元気がない。 
 「君に紹介するよ。あの人は俺の仕事仲間でね。名前は『ハル』さんだ。」 
 そのハルさんと言われる人も、教室に入って来た。 
 「君が○○(僕の名前)クンね?話は聞いているわ。」 
 若い女性だった。見た目は20代後半くらい。顔は、芸能人に例えるなら夏目雅子に似ている。今のおっさんとは対照的で、すごくきれいな人だ。   
まず、おっさんがよく使っている爆竹の音がする技。あれは、たいていの相手であれば、一撃で葬れるほど強力なものだそうだ。まさに一撃必殺の技。
足止めにしかならないものだと思っていたので、すごいびっくりした。
 「強力だけど、術者の身を滅ぼす危険もあるわ。」とハルさんは言う。 
 そんなのを二発食らっても死なない呪い。つまり、それだけ呪いも強いわけで。 
 そんなおっさんをサポートするために、新たにハルさんが加わったそうだ。 
 「よろしくね。」ハルさんが、僕に微笑んだ。 
 「いうう、おういんいうあえいえうああい(至急、職員室まで来てください)」 
 また校内アナウンスが入る。 
 「どうする?行く?」おっさんが、笑いながらハルさんに聞いた。 
 「馬鹿じゃないの?死にに行くつもり?」 
 「冗談だよ。さすがに、こんな身体じゃ今日は無理。」 
 「あんたの冗談は、冗談に聞こえないわ。」 
 おっさんとハルさんって夫婦なのか?二人が話している間、僕が会話に入り込める余地は全く無かった。完全に、受け身の状態である。 
 僕は、複雑な気持ちだった。おっさんを取られたような気がして、ハルさんにちょっと嫉妬してしまった。 
 「とにかく奴が仕掛けてくる前にここを出よう。」と、おっさん。 
 「そうね。」ハルさんも頷く。 
 おっさんとハルさんは、机や椅子をどけ、出来たスペースの真ん中に僕を立たせた。 
 その僕を挟むようなかたちで、二人が立つ。僕の前方にハルさん、背後におっさんという感じ。 
 「これやると、死ぬほど疲れるから嫌なんだよなぁ。」背後から、だるそうに呟くおっさんの声が聞こえた。 
 「あんたがケータイ持って来ないから、これやる羽目になったんでしょうが。」 
 ハルさんもだるそうに言う。何か始める気らしい。   
そう言うと、ハルさんは静かに目を閉じた。後ろにいて見えないが、おっさんも同じように目をつぶったのだろう。
これから何が起こるのか全くわけが分からないまま、事の成り行きを見ている僕。
ハルさんは、精神統一しているのか、目をつぶったままだ。
しばらくそのままの状態が続くと、ふいに僕の視界が揺らぎ始めた。
電子機器が唸るようなノイズが、耳元で聞こえる。
同時に、自分の意識が身体から離れるような不思議な感覚を味わった。
自分の存在が、そこから消えるような、そんな感覚。目に映るものが、どんどん真っ白になっていく。
 僕は起きた。目に映るのは、僕の部屋の天井と、シーリングライト。 
 夢だったのか?起き上がろうとするが、身体が思うように動かせない。 
 そういえば、風邪で動けないんだった。ワンテンポ遅れて、把握する。 
 僕は、もう元の世界に戻っていた。 
 あの世界とは違い、僕の部屋にある目覚まし時計が、一秒ごとにカチカチと規則正しく音を立てながら、針を動かしていた。 
 あまりのあっけなさに、自然と笑いがこみあげる。 
 今回、呪いがした事といえば、不気味なチャイムと校内アナウンスくらいだ。 
 目を勉強机の方にやると、椅子の背中にもたれかかって、おっさんがだらしなく座っている。僕が起きたことに気付き、おっさんはニコっと微笑んだ。 
 ハルさんが見当たらない。 
 「ハルさんは?」 
 「あぁ、あいつか。風邪をひいてる君に何か作ってあげようってことで、買い物に行ったよ。」 
 途切れ途切れの息で、おっさんが答えた。疲労困憊しているのが伺える。 
 「とにかく化け物だよ、あいつは…。俺なんかこんななのに、すました顔して出て行きやがった。」おっさんは、悔しそうだ。 
 「おじさんとハルさんってどういう関係なの?」僕は聞いた。 
 「俺の仕事仲間。一番腕が立つ。」 
 「おじさんの妻?」 
 笑いながらおっさんは、否定した。 
 「あんなのが女房なんて死んでもごめんだね。ああ見えて俺より歳食ってんだぜ。」 
 え?僕は、思考がストップしてしまった。   
ハルさんに少し惚れていた僕にとっては、とんでもない衝撃だった。
思考は停止していたが、聞いてはいけないものを聞いてしまったというのだけは分かる。
 ニヤニヤしながらおっさんは、身体を起こすと、僕の布団をかけなおしてくれた。 
 「君を見ているとね。我が子を思い出すよ。」 
 そう言いながら、どこか懐かしそうな目で、僕を見ている。僕と同じくらいの歳の息子が一人いるらしい。 
 「ちゃんと家族に会ってる?」心配になって聞いてみた。 
 おっさんは、首を横に振る。 
 「もうね、会えない。」 
 離婚して会わせてくれないのか?もしくは、仕事のために家族を捨てたから、家族に会わす顔がないとか? 
 この人のことだから、家族をないがしろにしていても、別におかしくないかも。 
 頭の中で僕は、会えない原因を推理していた。 
 「君も知ってるだろ?俺が呪われているのを。」 
 「え?」 
 「気付いた時にはね、もう手遅れだった。それでもあきらめずに頑張ったよ。 
 それこそ、当時は若かったし、今より力もあった。でも…助けられなかった。」 
 僕の推理は見事に外れた。 
 おっさんの家族は殺されたのだ。それも自分の呪いに…。 
 「俺が殺したも同然さ。」 
 そう言うとおっさんは、下唇を噛んだまま、黙り込んでしまった。自分を責めているようだ。 
 涙こそ見せなかったが、僕はそこにおっさんの家族を想う深い愛を、確かに感じることが出来た。 
 「たっだいま~。」 
 重苦しい空気の中、何も知らないハルさんが帰ってきた。そして僕の部屋に戻ってくる。 
 それを合図にするように、おっさんは腕時計に目をやる。 
 「悪いな。俺はもう行かなきゃ。ハル、後はまかせたぞ。」 
 「分かった。」とハルさん。そしておっさんは、また呪文のようなものをつぶやくと、瞬時に消えてしまった。部屋には、俺とハルさんの二人だけとなった。   
もちろんお腹はペコペコだったけど、ハルさんと二人だけで食事をするのは気まずかったので「ううん」と答える僕。
「あら、そう。じゃあ、料理だけ作っておくわ。ちょっとキッチン借りるね。」
そう言うと、ハルさんはキッチンの方へ行ってしまった。
進学塾の定期試験が近いので、その間に勉強しようと思ったけど、意識が朦朧としているので、内容が頭に入りそうにもないので、やめた。
何もせず、天井をじっと眺めながら待つこと数十分。ハルさんが、戻ってくる。
「テーブルの上に作ったのが置いてあるわ。ちゃんと食べなね。」
声も無しに、ただ頷く僕。
 「じゃあ、私もそろそろ行くね。」 
 そう言うとハルさんは、おっさんと同じようにその場から、ふっと消えてしまった。 
 部屋には、僕一人だけとなった。 
 だるい身体を引きずりながら、僕はリビングに向かう。 
 テーブルの上に、書置きが置いてあった。『早くよくなってね。ハル』と書いてある。 
 その横にラップがされたお椀。まだ温かいので、蒸気で白く曇っている。中身が見えない。僕はラップを取った。 
 卵粥だった。 
 それを口にする。 
 うまい。おふくろの味ってやつ?とにかくうまかった。 
 せっかく僕のために作ってくれたのに…。 
 ハルさんは、僕がどんな顔して食べるのか見たかったのでは? 
 そう考えると、すごくハルさんに申し訳ない気がした。 
 次の日、嘘のように風邪が治っていた。 
 薬の効き目なのか?それとも卵粥のおかげなのか?それは分からない。 
 身体が軽い。鬱だった気分も晴れ晴れとしていた。 
 実に気持ちいい朝である。 
 支度を整えると、軽快な足取りで僕は、学校へと向かったのだった。 
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