ボロ市とは大きな蚤の市が開かれるお祭りだ
ある露店で、彼女は何かを見つけた
「かわいい~」
見てみると、それは木彫りの人形だ
頭が大きいサルみたいな形で、変な人形だった
お世辞にもかわいいと言える代物ではなかった
ごちゃごちゃと雑貨が置かれている露店の中から
彼女は一目で人形を見つけ出し、手に取って眺め始めた
「ねえ!これ絶対買う!」
目を輝かせ人形を眺めながら、彼女はそう言った
俺は妙な買物だと思ったが……彼女は人形を買って持ち帰った
彼女は人形を家に持ち帰ると、空いている棚に飾った
最初のうちは毎日眺めているだけだったが
しばらくすると、人形に語りかけるようになった
そんなにその人形が気に入っているのか?
俺は不思議そうに眺めていた
バイト先から帰ったとき
ひとりでアパートにいた彼女が人形と話をしていた
流石に少し気味が悪くなった
「何で人形と話をしているんだ?」
「この子、よく夢に出てくるんだよ」
彼女が言うには、最近、人形が夢に出てくるそうだ
人形の前に15歳位の女の子が現れて、夢の中で友達になったという
女の子は何も言わないが、いつも寂しそうにしていた
そういうわけで、何気なく人形と話し始めたそうだ
不思議なことに、彼女が人形に話しかけると
その女の子は夢の中でニコニコしているのだという
「へえ、不思議な人形だな」
「でしょ?」
「ちょっと俺にも見せてくれよ」
そう言いながら人形を手に取ろうとしたとき
「さわるな!」
彼女は劣化のごとく怒り大声で怒鳴った
そのときの表情は、俺が見たことのない怒りに満ちた顔だった
それ以来、俺は人形について干渉しなくなった
彼女の行動は段々エスカレートしていった
ひとりで居るときは、TVも音楽もつけずに人形と話しているようだった
人形に御供え物を置くようになり、人形の前に果物や菓子が置かれた
人形の置いてある棚は祭壇みたいになっていた
傍からみていると、かなりおかしい状況だ
そんな状況が続く中、大学のサークルの友人達がうちに遊びに来た
やはり人形が目立ったようで、友人達は人形について聞いてきた
「何なのこの人形?」
「何でこんなブサイクな人形を可愛がるんだろうね?」
口々に疑問を言ってくる友人達
そんなことは俺が聞きたいくらいだと思った
「あー、たぶんだけど、これはボルネオのダヤクの人形ですね」
サークルにいた後輩の女子が口を開いた
その子は、専攻の関係で海外の民俗学とか伝承に詳しい
個人的にもアジア雑貨とかエスニック物が好きな子で
ヒッピーみたいな格好をしていた風変わりな女子だ
「へえ、流石にこういうのに詳しいね」
「これは何に使う人形なんだい?」
俺はその子に聞いてみた
「これはですね、死霊を込めて御守りに使う人形ですよ」
「人が死んだとき、木彫りの人形に魂を込めて安置するのですね」
その話を聞いて俺は寒気がした
一緒に住んでる間中、彼女と人形の交流は続いた
祭壇は玩具やロウソクまで置かれるようになり
人形の周りは御供え物で埋まってしまった
人形を食い入る様に眺めながら話しかける彼女は
かなり気味が悪かった
まるで人形に魅入られてしまっているようだった
大学を卒業した後
就職の関係で彼女とは離れ離れになってしまった
遠距離恋愛は続かない物で、関係は自然消滅してしまった
だから、今は彼女がどうしているか分からない
ただ、引っ越しの際は人形を持って行ったようだ…
彼女と人形の関係は、おそらく今も続いているだろう