しかし、少し道に迷ったせいか、我々は412号線の途中に出てしまい、地理に詳しくなかったこともあり、とりあえず厚木
市街地に出て、そこで遅い夕食を取ろう、ということになった。
引用元: ・死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?167
当初、我々は相模湖から城山ダム方向に走り、八王子街道を下って246へ向かうというプランだった。
しかし、少し道に迷ったせいか、我々は412号線の途中に出てしまい、地理に詳しくなかったこともあり、とりあえず厚木
市街地に出て、そこで遅い夕食を取ろう、ということになった。
昼間に散々遊んでいたため、私は少々くたびれていた。後部座席の窓際に座り、同乗しているサークルの仲間達が楽し
げに話しているのをよそに、窓にもたれかかってウトウトとしていた。連休が明ければ大学が始まり、そして2年生に進級
してから開始した塾講師のアルバイトの講義用のノートを作っておかなければ、なんてことを考えながら…。
「…参ったなぁ」
運転していた野上が呟いた。
私は車内が静まり返ったのを感じ取り、浅い眠りの世界から現実に引き戻される。先ほどまで和気藹々と騒いでいた車
内がいつの間にか静まり返っていた。みんな、私と同じように遊びつかれて眠りこんでいるようだ。
「どうしたんだ?」
私は野上に尋ねた。
気付くと、先ほどまでスイスイ流れていた道が、いきなり渋滞している。
「おう、起きたか。…なんか今、前の方で派手に事故があったみたいで、渋滞始まっちゃったんだよね」
「…事故?」
私は尋ね返す。
「ああ、ついさっきよ。微かだけど前のほうで派手な衝突音がしたしな…しかし動けるのかな?」
既に日は沈み、辺りは暗い。時計を見ると既に8時半を回っている。
やっぱりケチらずに高速乗って帰ったほうがよくないか、と思ったが、今更と思い口を閉じた。
すると少しずつだが、前の車が動き始めた。我々の乗っている車もそれに連れて動き始める。
「動いたみたいだな」
「ああ。…でも警察とか来ないのかな?事故あったんだからさ」
少し進むと前方に路上を斜めに塞ぐように止まった大型トラックの荷台が見えた。
巨大なジュラルミン製の荷箱が、我々の車の数台先に見える。
どうやらあのトラックが事故を起こしたようだ。
「あれ、動かせないのかな?」
私は尋ねる。
「いや、一応事故現場の保存とかあるんじゃないか?…それに怪我人がいて動かせないとかさ」
なるほど、と私は思った。
そうこうしている間にも車は進む。間もなく事故現場だ。
それと同時に、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。だんだん近付いてきている。
車内で寝ていた久美や後輩の村瀬などもどうやら起きだしたようだ。
何が起こったのと、野上に質問している。
野上は面倒臭がらずに、事故が起きて交通の流れが阻害されている旨をキチンと説明していた。
疲れてないのかな、と私は野上のことを感心して眺めていた。
「…見に行ってみましょうか?」
村瀬は身を起こすと、いきなりそう言った。
確かに、事故現場周辺には何人かの野次馬が集まっている様子がある。
「いや、その必要ないんじゃないか。間もなく事故現場の横を通るしさ」
そしていよいよ我々の車が事故現場に差し掛かった。
中央分離帯に派手に突っ込んだトラックは、前面が派手に破壊されている。
そのすぐ傍で、血で赤く染まった白いタオルで頭をおさえて座り込んでいる人物…風体から運転主のようだ。
路上には砕けた窓ガラスやひしゃげて外れたバンパーなどが散乱している。
そしてその先、10メートルほどの場所に中型のバイクが転がっていた。
フレームが完全に壊れ、エンジンやキャブレターの部品が殆ど外れかけている。
その脇、中央分離帯の辺り…少し距離を置いて7~8人ほどの野次馬が取り囲んでいる辺りにバイクのライダーがいた。
間違いなく死んでいる。
上半身と下半身は奇妙にねじれ、両脚は双方とも奇妙な方向を向いている。
トラックに踏み潰されたのだろうか、それともアスファルトに派手にたたきつけられ、引き摺られたのか
胸から上は完全につぶれ、最早原型を留めていない。赤黒い血がアスファルトの上を流れ、どこの部分か解らないが、
血まみれの肉片がアスファルトの上に無造作に散らばっていた。
「うひゃっ!すげえ」
「ムゴイなぁ…完全に死んでるな」
我々は少し引き気味でライダーの遺体を眺め、少し顔を顰めながらそう言いあった。
我々がトラックの止まっている横に差し掛かったとき、反対車線にパトカーが到着した。救急車も到着していたが、これ
の恩恵を受けられるのはトラックの運転手だけだろうな、と思った。
警官達は事故現場の辺りの交通整理を開始し、多分鑑識の所属の警官だろうか、通常の警官の制服とは異なる紺の
作業着風の制服と帽子を纏った連中が現場に散ってゆく。また、別の警官が大きな青いビニールシートを運びだし、
ライダーの遺体が転がる辺りに運んでいった。
警官の一人が我々の車に近付いた。そして野上のいる運転手席の窓をコンコンと叩く。
野上は咄嗟に窓を開け、警官に応じた。
警官は2~3の質問を投げかけ、それを野上は丁寧に答える。
ふと、私は寒気に襲われた。
周りの喧騒が一気に遠のく。
警官の質問に一つ一つ丁寧に答える野上やカーラジオの音声などが一気に遠のく。
周りの光景も何かフィルターがかかったように歪み、ぼやける。
(な、何なんだ、これ)
私は突然のことに戸惑った。
軽い風邪かな、とは思ったものの、今まで味わったことの無いへんな感じだった。
そして私の目線は、無意識にバイクのライダーのいる辺りに向けられた。
何人かの警官が、十人ほど集まった野次馬を退かせながらバイクの写真を撮ったりしている。
到着した救急車から降りてきた救急隊員が駆けつけ、ライダーの遺体の元へ駆け寄る。
がやがやと騒がしい中で、何故か一人立ち尽くしている人物…
「?」
呆然とし、ライダーの死体を見下ろしている人物がいた。
遺体のすぐ傍、救急隊員や警官が忙しく動き回る辺りでただ一人、時が止まったかのように固まっている。
その人物…ライダー本人だ、そう私は直感的に理解した。
今、目の前で起きていることが信じられない、そういった面持ちで'彼'は、自らの死体を見下ろしていた。
私はそのことに気付き、一気に鳥肌が立った。
この手のオカルトなんて、今まで一度だって遭遇したことなどなかった。
しかし、私は目線を逸らすことが出来ない。魅せられたようにその光景を眺めていた。
立ち尽くしている'彼'が、一瞬ビクッと体を震わせた。
そして私の視線に気付いたのか、フッと私の方を振り返る。
私の視線とかち合った。
私の体は硬直した。
'彼'の目は、今ある現実が受け入れられず、混乱している目だった。
'彼'の目を見た瞬間、私は彼が事故に遭った様子を悟った。
彼の記憶が、交わされた視線を通じて私の頭に流れ込んでくるかのように…。
…大型トラックに併走する中型バイク。
そのバイクの上に載る青と白のストライプ模様のヘルメットをかぶった'彼'。
2車線道路のそれぞれの車線を走るトラックとバイクは、充分に距離を保っていた。
決して危ないといえる状況ではない。
T字路に差し掛かる…事故現場の直前にあったものだ。
併走するトラックとバイクの間で何かが突然動いた。
いきなり、大型トラックの上から、真っ黒な腕のようなものが何本も伸びる。
それらは真っ直ぐバイクと'彼'を掴む。
瞬間、大きくバランスを崩したバイク…。
慌てる'彼'、何とか体制を立て直そうとした刹那…。
一瞬にして、トラックの方に引きずりこまれ、トラックに衝突…。
「えっ?」
私は思わず、声にだしていた。
今の事故映像、本当なのか、と私は自問した。
あの何本もの真っ黒な腕のようなもの…あれは一体なんだったのだろうか。
私は信じられない、という顔で'彼'の方を振り返った。
'彼'は未だに自分の死が受け入れられずにいるようだ。
'彼'は私を見た。こんどは哀願するように…自分に気付いてくれた私に縋るように。
'彼'はゆっくりと私に向かって歩き出した。
「頼むよ…なあ、あんた、助けてくれよ…」
'彼'の心の声が聞こえる…まるで頭の中に直接届くように。
私はたじろいだ。そして座席の背もたれの方へ思わず後退した。
汗が伝う…額にうっすらと滲み、脇の辺りにもじっとりとした感触を感じた。
これが「憑く」ってやつなのか、私は悟った…冗談じゃない!
野上は相変わらず警官と話している。
助手席の村瀬は後部座席の方を振り返り、久美と雑談をしている。
おまえら気付かないのか?
とくに久美、おまえ普段から「私、結構霊感あって…」とか言ってなかったか?
事故現場の喧騒のなか、まるで別の空気をまとったかのような'彼'は、なおも私に向かってくる。
多分'彼'が私に気付いてから、ほんの数秒しか経過していないだろう。
しかし私にとっては何分にも感じられた。
死人の目…確実に死を向かえた'彼'の目は、混乱と怨嗟と恐怖と、そういった全てを含有した漆黒の瞳…が私に向け
られる。
マズイッ!私はどうすることも出来なかった。
恨めしそうな'彼'の目を見返すのが精一杯であった。
突然、頭の中で凄まじい爆音が響いた。同時に何だかわからないが衝撃波のような一撃が私を襲う。
瞬間、私の視界の風景は大きく歪んだ。
私は一気に全身が強張る。とんでもない寒気がし、全身が粟立った。僅かだが、膝が震えだした。
おかしなことに、路上に集う警官達は、何事も無かったかのように普通に動き回っている。車内でも相変わらず村瀬と
久美が雑談を続けている…何も感じなかったのか?
そんな中、'彼'も今の衝撃に襲われたらしい。軽く吹き飛ばされるように煽られ、よろめく。
(何事だっ!)
私は反射的に振り返った。
事故を起こしたトラックの向こう側、荷台のある辺り…そこから真っ黒な煙のようなものが漂っている。
私は思わず 軽油に引火して爆発したのか、と思った。
今思えば不思議だ。結局私は自分の常識の範囲内でしか物事を判断できないのだ。
しかしそうではなかった。
トラックの向こう側に何かがいる、それが分かった…やはり直感的に。
今まで私に向かって歩いてきていた'彼'も察したようだ。
私から目を逸らし、私と同じようにトラックの方を見つめている。
再び混乱した面持ちで。
真っ黒な瘴気が濃くなってゆく。
何ともいえない圧力があたりを包む。
ヒタッ、ヒタッ、と足音が響く。
車のエンジン音や、時折鳴らされるクラクションの音、人の動き回る喧騒…そんななかにありながら確実に私の耳、
いや、脳内にその足音が届く。
そこから現れたモノは異様な存在だった。
全身黒光りする滑らかな肌。
長身…2メートル近いそのしなやかな長身を覆獰猛な筋肉がしなやかに蠢く。
やはり漆黒の、細長い顔…長い銀髪を後ろに撫で付けて垂らし、歩くたびに夜風に煽られて柔らかく揺れる。
目線が釘付けになった。
とてつもない覇気を放つその人物は、警官たちの間を縫うようにしてこちらに近付いてゆく。
黒光りするその整った面立ちは僅かに微笑んでいるように見える。
周りの人間は気付かないのか、と私は思った。
息が上がり、汗が頬を流れる。
車内では相変わらず久美と村瀬がくだらない雑談をしている…それも遠くから聞こえる感じだ。
漆黒の男はゆっくりと顔を上げた。
やはり微笑んでいた…そして目を見開いた。
…光り輝く黄金の瞳が、残酷な輝きを放った。
その怪しい輝きは、真っ直ぐ'彼'に向けられている。
「ひいいっ!」
誰かが叫んだ、'彼'だ。
間違いない、'彼'を殺したのはコイツだ。
先ほど見せられた事故の映像…コイツはトラックの荷台の上に確かにいた。
そして、バイクに乗る'彼'を殺したのだ。
'彼'も気付いたのだろう。
そして、今目の前で微笑む漆黒の男が何者かを。
後ずさりする'彼'
その瞬間、再び衝撃が走った。
漆黒の男は笑った。
真っ黒な顔にいきなり大きく裂けた口…ギラリと尖ったナイフのような白い牙が、真っ赤に染まった口腔の中でズラリと
並んで光る。まるで血に染まったように赤い下が、その中で蠢いているのを見た。
瞬間、ありえないスピードで7~8メートルの距離を跳躍した漆黒の魔物は、一瞬で'彼'を捕らえた。
いつの間にか生やした何本もの腕…'彼'とバイクをトラックの中に引き込んだあの腕…で、'彼'を抱える。
'彼'の絶叫が響いた。
漆黒の魔物は無数の腕で'彼'の肉体を引き裂いた。
そして巨大な口が'彼'の喉元を食い破り、そのまま頭部を引き千切った。
「ぐぎぃ…ぎぃやあぁっ!ぐぶっ!」
'彼'の苦悶の叫びが途絶えた。
現実の'彼'の死体は、それこそ何事も無かったように担架に載せられ、救急車に向かって運ばれてゆく。
一方、彼の魂は…今この瞬間まさにこの場で魔物に食い殺されてゆく。
引き千切られた'彼'の肉片が現場検証を行っている警官の首筋に飛び散った。
その警官は一瞬不思議そうな顔をし、指先で軽く首筋を掻くと、再び自分の仕事に戻る…気付いていないのだ。
唖然とする私の目の前で、漆黒の魔物は'彼'を食らい尽くした。
引き裂かれた'彼'の四肢を食いちぎり、彼の胴を食い破り内臓に齧りついた。
そして絶叫した表情のまま路上に転がっていた'彼'の頭部を、バリバリと噛み砕いて飲み込んだ…。
あっという間だった。
漆黒の魔物が私を見た。
ギラリと輝く黄金の瞳が私を射抜く。
私は動けなかった…声ひとつ上げることも出来なかった。
そんな私を見つめながら、その怪物はニヤリと笑った。
…野上が警官に「ご苦労様です」と声を掛けて窓から顔を引っ込めた。
そしてシフトレバーをパーキングからドライブに切り替える。
同時に村瀬は助手席に座りなおし「ちょっといいですか?」と尋ねながらラジオのボリュームを大きくした。
そして車は発進した。
私は無理矢理視線を戻した。あの魔物から、助手席のヘッドレストに視線を移し、わざとそこを注視した。
車は事故現場の横をすり抜け、そのまま通り過ぎた。
しかし、私は遂に耐え切れず、後ろを振り返った。
事故現場…すでにそこにあの魔物はいなかった。
引き千切られた'彼'の'残骸'を巡って、虫けらのような変な幽霊が集い、奪い合っているのが見えた。
「どうしたの、顔色が変だよ…?」
隣に座っている久美が話しかけてきた。
私は自分が汗だくになっていることに気付いた。慌ててハンカチを取り出し、額や首筋の汗を拭う。
「大丈夫?」
能天気にそう尋ねる久美…普段、霊感があるとかなんとか言ってたんじゃなかったのかよ、と私は少し腹立たしかった。
私は思ったものの、なんだか面倒くさくなり
「いや、何でもないよ…ちょっと風邪でも引いたのかな」
私はそう言うと、目線を窓の外に向けた。
そしてその日から、あの黄金色の目に私は見つめられ続けている。
ふと、振り返ると、漆黒の闇の中から私を覗くあの黄金色の瞳を感じる。
私は、誘われるようにして久美を殺した。
そしてその血肉を喰らった。
私も彼のようになれるのだろうか?
パトカーのサイレンの音が近付いてくる。
周囲の人間は悲鳴を上げ、唖然とした顔で私を見つめる。
あの魔物の笑い声が聞こえる。
そして私も笑った。高らかに笑った。(おしまい)
さっきファミレスのトイレ行ったらさwwwwwwwwwwwwww
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