夜警のバイトをしていた時のこと。
職員用のロッカールームを見回った時、半開きになったロッカーがあった。
(不用心だなこいつ、まぁ大事な物なんて置かないか)
そう思いつつロッカーを閉めようと歩み寄ると、中から黒い手が伸びてバン!と勢い良く閉められた。
動揺して立ち尽くしているとガチャ…と扉が開けられ、半開きになった
ロッカーの中から真っ黒い何かが顔を覗かせていた。
逆光でよく見えずロッカーにライトを開けると顔はひっこみ『クフフッ』と
笑い声がロッカーから聞こえた。
こえーとか思っていたが、途端におちょくられてる様に感じ、ムカッときた。
俺は音を立てずにゆっくりと近づき灯りを消してみた。
また顔がひょっこりと覗かせようとした時、(バカめ!)とロッカーを
蹴り閉めてやった。
『ぎぃぃぃぃっ!!!』
動物の様な声を上げてロッカーがガタガタと揺れ、ドンドンとロッカー内から
開けようとしているも、俺がしっかりと膝で抑えている為開けられない。
(あー気分いいわー)と思いつつこれをどうするか考えていると、
ガチャガチャガチャガチャバンガチャバンバンバンガチャガチャガチャ!
俺が膝で抑えてるロッカー以外が一斉に開け放たれた。
ぎぃぃぃぃ…と複数のロッカーから鳴き声が聞こえ始め、俺は全速力で
ロッカールームから退場し鍵をかけた。
その後宿直室でさすまたを持って朝まで待ち構えていた。
気が動転して連絡することも忘れ、(俺はさすまたの達人…俺はさすまたの
達人…!)とよく解らないことを心に言い聞かせて待ち構えた。
何事もなく朝になって職員たちがロッカールーム中に無数の黒い墨のような
足跡と、ロッカールームのドアに握り拳台の叩いた様な後が
沢山ついていたと騒いでいた。
ついでにロッカーの一つが歪んでた事(恐らく蹴りを入れたやつ)も
文句を言っていたが、その日からバックれた俺には最早関係の無い
話だった。
全部俺のイタズラの様に片付けられて文句の電話も来たが、
金品がなくなったわけでも無かったので無視していてもしつこくは来なかった。
お前らもいつかくる時の為にさすまたの達人になった方が言いと忠告しとく。