12月も半ば過ぎた頃の明け方、彼女は妙な音で目を覚ました。
「パン・・・パン・・・」と、ずいぶんな人数が一糸乱れず手を打ち鳴らすよう音が
窓の外から聞こえてくる。
彼女はしばらくの間その音を聞くともなしに聞いていたそうだ。
時計を見ると4時少し前。外はまだかなり暗い。
彼女はベッドの中で(ああ、ずいぶん大勢通るんだな、うるさいな~)とぼーっとしていたが、
次第に(ん?・・・・・・何か・・・これは・・・変だ。)と思い始めた。
彼女のアパートのすぐ前が道路になっているのだが、彼女の部屋の下で道は東に折れさらに
20メートルほど行ったところで南に曲がるクランクになっている。
彼女のアパートの右隣は2階建ての民家が道に面して建っていて、アパートとその家の間は
コンクリートの塀で仕切られ、人が何人も入れるような隙間はない。
仮に入っていったとしても、その先は裏の民家の壁で行き止まりになっていて通り抜け
出来ないのだ。
方向にだんだん遠ざかって行くように消える。しばらくするとまた北の方から音がしてくる。
それがさっきから何度も繰り返されているのだ。
気になりだすと音の正体を確かめたくなったが、外を見ようかどうかすごく迷った。
何となく嫌な感じがして怖かったそうだ。しかし音はいつまでも続きそうで、このままでは
気になって眠れない。彼女はベッドから起き上がりカーテンを開け窓のロックを外した。
外はすごく寒い。窓を開けて覗くと街灯の明かりに照らされて、前の道は思いのほか
明るかったそうだ。
しかし路上に音の元になっているようなものは何もなかった。
が、依然手を叩くような音はしている。窓から体を乗り出して見回してみた。
音はちょうど部屋の前を行きすぎようとしている感じ。
「パン・・・バンッ!・・・ドンッ!!」急に音が大きくなった。
同時に小さいものが彼女の顔の横にヒュッと飛んで来た。
茶色く見えたので初め鳥と思ったそうだ。だが違った。
赤茶けた髪の毛の固まりだった。
とっさに彼女は窓から顔を引っ込めてカーテンを閉めた。
窓は開きっぱなしだが、そうするのが精一杯だったそうだ。
「どぉおおん!・・・どぉおおおん!・・・」音はどんどん大きくなって今度はずっと動かない。
彼女はパニックになって、ものすごく怖いのに窓のそばを動けなくなってしまった。
外が騒がしくなって、人の気配がした。何か叫んでいるような声もする。
(ああ、やっぱり音がしてたのみんな気がついていたんだ。)
ふっ、と体が動いた。とたんにきな臭い匂いがした。驚いてカーテンを開けると真っ黒い煙が
流れて、人が前の道に集まって騒いでいる。
「早くそこ出なさい!火事!危ないから!」見ると同じアパートの住人が着の身着のままで
逃げ出している。彼女も慌てて外に出た。
火元は裏の家で全焼。火を消そうとした家の人が左半身に大やけどを負って後に亡くなったそうだ。
失火の原因はストーブの火の不始末らしいが、彼女はきっとあの得体の知れない音が火事に
関係していると言う。
あまりにもマジな顔で言うので、その話しを聞いたときは本当に気味が悪かった。
彼女はその後すぐその部屋を引っ越した。
もうあの部屋のある沿線には近寄りたくないと言う。
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