どこに投下すべきか迷ったのでここで。
十歳くらいから、同じ女が出てくる夢を見る。
どこに投下すべきか迷ったのでここで。
十歳くらいから、同じ女が出てくる夢を見る。決まって座敷でお茶とお茶菓子があって、女と俺が談笑してんの。夢っつってもこの女の夢だけははっきり覚えてる事ばかりで、怖い夢でも無かった。色々な事を教えてくれる良い人だった。
成長するにつれ、中学校に入ると入学祝いだからと高そうなお茶菓子出してくれたり、制服姿を褒めてくれたりと、自分の姉のような存在に思ってた。俺1人っ子だけど。
そんな中、中学三年生で初めて彼女が出来た頃から、夢を見なくなった。やっぱ夢は夢だよなあくらいにしか思わなかったんだけど。
その彼女とはかなり長く付き合ってたんだけど、すれ違いから別れてしまった。
十年近く付き合ってたから、かなりショックで暫く何もする気が起きなくて、仕事も休んで部屋でぼーっとしてたらいつの間にか寝入ってたみたいで、これまた十年ぶりくらいに女の夢を見たんだ。
座敷に座ってる女はすごい形相をしてて、怖くて、ごめんとか、許して下さいとか連呼してた。でも、女は俺に怒っているのでは無いと言って、元彼女の事を話し始めた。
俺と別れる一年前から、他の男が出来ていた、それと結婚するために別れたんだと言われ、俺は情けないやら何やらで頭の中がぐちゃぐちゃになって、その場で大泣きした。良い歳の大人が、子どもみたいにわんわん泣いた。
頭の片隅に、夢で自分の都合の良い解釈をする程に俺は落ちぶれたのかとさえ思った。
だけど、妙にリアリティのある場所やシチュエーションを女が話してくるものだから、俺は気になってしまい、悪いとは思いながらも共通の友人に頭を下げて教えてもらった。
元彼女に新しい男はいるのかと聞いたら、酷く気まずそうな顔をしていると言った。もう目の前が真っ暗になったよ。
それで、その男はどんな奴だと聞いたら、まさかの俺の職場の上司だった。信頼してた人だっただけに、もう死にたいと思いながら、友人に礼を言って飯奢って帰った。
彼女と一緒に飲もうと思って買ってた良い酒を開けて、一人飲んだくれて寝た。心の中で、あわよくばあの女が慰めてくれるんじゃないだろうかって思いながら寝た。
案の定、夢を見た。だが、女の形相は変わらず恐ろしいもので、俺はその日あった出来事を話しながら顔色を伺っていた。だけど表情はかわらないまま、女は言った。
あなたにまた戻るだろうと野放しにした私も私だ、許してくれと都合良く言えるものでもない。だから、何でも一つだけ言う事を聞いてあげる、と。
俺は深く考えないまま言ったんだよ、仕事も頑張る、生活だって自堕落に送らない、だからお前だけは一緒にいてくれないかって。
そしたら、女は穏やかな表情で、分かった、とだけ言って頭を下げてきた。これからよろしくお願いね、と。
それから、たまにしか見ていなかった夢を毎日見ている。
お茶菓子があって、お茶があって、小綺麗な座敷で話をしてる。ただ、前と違うのは、女と俺は対面で座ってたものが、隣同士になって、手を繋いでるってとこ。
いつの日か、あの世にでも連れていかれるんじゃないかってビクビクしてたけど、今のところまだ生きてるし、女も俺の考えを知っているように言うんだ。
生きてる世界が違うからって、連れていったりしない。
夢の中で逢えるだけでいいの、って。
俺はこれから、一生独身かもしれない。