厚子の夫・博史は、地方選出の国会議員をしている。
祖父、父と議員をしてきて、父の引退の後を受けつぎ、初当選を果たした。
夫と共に選挙活動をしてきた厚子は、明るく社交的で、誰からも好かれていた。
彼女のおかげで夫が当選できたと、周りの誰もが認めていた。
しかも、彼女のお腹には彼の子どもが宿っていた。
順風満帆に見えた彼女だったが、実は秘密があった。
ある思いを胸に秘めながら、その時が来るのを待っていたのだ。
ある日、博史は、友人に誘われてスナックへ行った。
そこで、スナックのママをしている美香に出会う。
美香は、博史の理想のタイプの女性だった。
美香は三十代後半で、着物の似合う和服美人。
バツイチの彼女は、年齢よりも若く見え、趣味の話で二人は、初日から意気投合した。
それからというもの、博史は一人で、彼女の店に通い始めるようになる。
博史は美香にのめり込むようになり、二人は男女の仲になった。
いろいろな口実をつけては美香と密会し、帰りが遅くなる博史を、厚子は疑うようになった。
あるとき、博史の携帯から美香の存在を知るようになった厚子は、探偵を雇って浮気の調査を始める。
やがて、浮気の証拠をつかんだ厚子は、いよいよ行動に出る。
まずは、情報を週刊誌にリークし、世間に公表。
そのショックで流産した彼女は、夫に離婚を申し出る。
離婚とともに相当な慰謝料を手にした彼女は、自宅を出て行った。
その後、博史は社会的信用を失い、次の選挙では当選できなかった。
博史がすべてを失ったことを知った厚子は、胸に秘めた思いを達成できた喜びでいっぱいだった。
実は、すべては厚子が仕組んだことだったのだ。
美香も、美香を紹介した友人も、すべては厚子の協力者。
博史を代議士に当選させたのも、すべてを失わせるためのものだった。
すべての始まりは、美香の母親だった。
美香の母・美登里は、博史の父・達男の恋人だった。
達男と美登里は愛し合っていたのだが、達男の父の反対により、結婚は認められなかった。
達男は、父の勧める有力政治家の娘と結婚し、博史が生まれる。
しかし、密かに達男と美登里は密会を続け、双子の兄妹が生まれる。
それが、真一と美香だった。
達男は二人を認知し、兄妹は美登里の姓を名乗る。
そして成長した真一は厚子と出会い、二人は恋人同士に。
実は、今回のことを厚子に依頼したのは、博史の父・達男だったのだ。
真一と美香が高校生のころ、母・美登里はガンで亡くなった。
達男は美登里が亡くなる前、真一と美香を決して不幸にはしないと約束し、経済的援助も陰でやってきた。
そして、達男自身もガンになり、そう長くはないことを悟るようになる。
彼にとっての心残りは、美登里が産んだ真一と美香だった。
同い年の真一と博史は、同じ有名私立大出身。
博史は自分の後を継いで政治家になったが、真一は某証券会社勤務だった。
どちらも学力優秀で甲乙つけがたいのだが、達男は美登里の産んだ真一に後を継がせたいと、前から思っていたのだ。
しかし、博史は正妻の子であり、真一は隠し子。
言うまでもなく、後継者は博史になった。
死期を悟った達男は、真一と美香と厚子を呼び、今回の計画を打ち明ける。
まずは真一が博史と友人関係になること。
次に、真一は厚子を博史に紹介し、二人を結婚させること。
その後、真一は博史を美香のスナックに連れて行き、男女の関係にすること。
厚子は妊娠したとウソをつき、その後、浮気のショックで流産したことにする。
博史の信用を失墜させ、次期選挙で落選させる。
その後、厚子は真一と再婚し、数年後には真一が政界に進出するというものだった。
そして、達男が亡くなったあと、計画は実行されることになった。
厚子と別れたあとの博史は、次の選挙で落選。
厚子は真一と再婚し、博史が政治家時代に築いた人脈を使って真一を政治家にすることに成功。
美香は、銀座に数件のクラブを持つ実業家になった。
博史のその後どうなったかはわからない。
(了)