会社の同僚との飲み会。
3次会まで行きギリギリ終電に間に合った。
最寄り駅に着いたがもうバスもない。
タクシーと思ったが長蛇の列。
面倒くさい、歩いて帰ろう。30分くらいかかるが酔い覚ましには丁度いいだろう。
俺はほろ酔い気分で家までの道のりを歩いていった。
その途中、俺は猛烈な尿意に襲われた。
家に着くまで我慢しようと思ったが、尿意は次第に大きくなり今にも膀胱が破裂しそうな勢いになってきた。
ここから少し行ったところに公園がある。そこのトイレまで我慢しよう。自分に言い聞かせた。立ちションとも思ったが、住宅が立ち並びシーンと静まり返ったこのあたりの道では立ちションは何となく忍びない。
どうにか持ちこたえ公園までたどり着いた。
深夜の誰もいない公園のトイレは薄気味悪いが背に腹は替えられない。
一挙に放尿した。なんとも言えない開放感にしたった。
家に着き着替えもそこそこにベッドに潜り込んだ。
一人暮らしの俺は携帯を目覚まし時計代わりとしている。
明日も仕事。携帯をセットしようとベッドの脇のテーブルにさっき上着のポケットから出した小物類に手を伸ばした。
ん?携帯がない。
財布とか定期入とかはあるが携帯がない。
俺はベッドから起き上がりあらためて携帯を探した。
上着やズボンのポケットや玄関先まで行った部屋中探した。
・・・やっぱりない。
落としたのかな?
俺は記憶を呼び起こした。
公園のトイレに行くまで猛烈に小便我慢しながらも友人にメールをしていたことを思い出した。てことは公園に行くまでは携帯はあった・・・公園のあとはメールとか電話はしていないはず。
あのトイレで落としたに違いない。そう言えば確か小便するとき上着を脱いで脇に抱えたような気がする。間違いない・・・あのとき落としたんだ。
でもどうする。
今から公園まで戻るのか。歩いて15分くらいか・・・。
時計を見るともう2時近い。
でも携帯がないと朝起きれないし様々なデータが携帯に入っているし、なくすとまずい。
今から探しに行こう。
俺は公園のトイレに向かった。
あいかわらずって言うかその公園には誰もいなくてシーンと静まり返っていた。
何となく怖い感じがしたが思い切って薄明かりのトイレをのぞいた。
・・・あった!小便器の下に俺の携帯は落ちていた。
俺は携帯を拾おうと腰をかがめて携帯に手を伸ばそうとした。
その瞬間、携帯がバイブった。
「うぉ!」俺はそのタイミングでのバイブでマジびっくりして心臓が停まりそうになった。
なんだよ?誰からだよ?
俺は携帯を拾い上げた。
『公衆電話』の文字が流れている。
誰だ? こん時間に公衆電話なんて。
俺は気味悪く電話に出ず、しばらくバイブる携帯を握りしめていた。
十数回の揺れのあとそのコールは終った。
何なんだよ、俺は携帯に目をやった。
画面を見て俺は背筋がゾクッとした。
着信38回・・・全部公衆電話。
何だこれ?
俺はこのトイレにいちゃまずいと直感して公園の出口に向かって走った。
・・・胸がドキドキする。
何かやばいな、これ・・・普通じゃないな。
そう思いながら公園から舗道に出た。舗道まで行きゃ人とかいるだろ。
クソっ こんなときに限って車も走ってない。もちろん歩いている人もいない。
ん?人か?人がいる。
道の反対側のだいぶ向こうのほうに後ろ姿だけど人影が見える。女か?
俺は目を凝らした。
それは人ではなかった。
黒い長い髪、白い着物・・・でも足がない、腰から下がない。この世のものじゃない。
なんだありゃ?
冗談ではなく俺は泣きそうになり腰を抜かすって言うかその場にへたりこんだ。
その女のようなヤツのちょっと先に公衆電話のボックスが見えた。
ヤツはそのボックスに瞬間移動した。
まさか・・・?
俺は最悪の予感がした。
案の定、ヤツは受話器を手にした。
数秒後、俺の携帯が揺れ動いた。
・・・『公衆電話』の着信文字・・・
俺は携帯から目を離し電話ボックスのほうを見た。
ヤツがこっちを振り返った。
うわーこっち向くな!
そこから先は記憶がない。
目覚めたら明け方近い交番のイスに座っていた。
「ん?やっと 起きた?何回起こしても起きないんだから」
その警官によると俺は路上で寝ていて、それを保護されたらしい。
「どうもすみませんでした。ご迷惑お掛けしました。」
「まぁケガとかなくて幸いだったけど、これからはあんまり飲みすぎないでくださいよ」
「あ・・・ええ・・・はい・・・」
「ところで所持品だけどこの携帯電話と家のカギだけでいいの?財布ないみたいだけど」
「そうです それだけです」
その後警官はいぶしげな顔をして俺に言った。
「その携帯の待受画面って何か意味あるの?いや・・・一応あなたの身元を確認しなきゃいけないから携帯見たんだけど・・・あれ何の写真?・・・いやこれは別に答える必要はないけどね。ちょっと個人的に気になるんで聞いてるだけだけど・・・」
「何ですか?待受がどうかしたんですか?」
俺はそう言いながら待受を見た。
女がレイプされている。
周りに数人の男がいる。
ん?この場所ってあの公園では?確信はないがそんな気がした。
警官も俺の横から待受をのぞきこんでいる。
そして俺に向かって言った。
「近くの公園あるでしょ?あそこで女性が強姦された後、殺された事件知ってます?もう数年たちますけどね・・・未だに犯人は捕まっていないんですけどね」
まじかよ?じゃああの女は?
俺は待受を見ながら呆然とした。
それを打ち消すようにその警官が冷たく言い放った。
「・・・今から本署に来てもらいます?任意なんですけど・・・」
は?俺が犯人って疑われているのか?
そのとき手にした携帯が着信で揺れた。
どうせ公衆電話からだろう・・・そういうオチなんだろう?
俺は半ばやけっぱちに携帯を見た。
110番?
何だコリャ?
おまえ冗談きついだろ?警官のギャグか?俺は目の前の警官に顔を上げた。
・・・?!
誰もいない。
何で?どこ行った?おまえどこ行った?
携帯が振るえ続ける。
俺は耐え切れず交番から舗道に跳び出た。
電話ボックスが見えた。
うっ!
明け方の薄明かりの中、また上半身だけのヤツがいる。
後ろ姿しか見えないけど・・・。
ヤツはゆっくりと俺に振り返った。
今度は見てやるぞ!おまえの顔を見てやるぞ!俺は拳を握り締めた。
うっ何だあの顔は?
凹凸のない顔に何か文字のようなものが書かれている。
俺は勇気を振り絞り凝視した。
ナンなんだ あの文字は?あの顔に何が書いてあるんだ?
『94 94 94 94 ・・・』
苦しんで死ね 苦しんで死ね 苦しんで死ね・・・
・・・その後・・・今俺は八幡山の病院で入院生活をしている。
周りは俺に気を使う。無理しなくてもいいよって。
違うよ!俺は普通だって。いたって正常だよ。
わかってる、わかっている・・・あなたは何にもおかしくないから・・・。
でも夢を見る。
苦しんで死ね・・・苦しんで死ね・・・苦しんで死ね・・・
明日警官が来る・・・任意なんだけどね・・・そう先生が言ってた。
今この板だけが俺の入院生活の楽しみ。
【終わり】