今から3年前、叔母が亡くなり町に1件しかない火葬場を訪れたときのこと。
タバコを吸うために外に出たとき、入り口から少し離れたベンチに
青いスカートと襟の大きな白いシャツを着た女が座っているのに気がついた。
15mほど離れていたが、その距離からでもわかるほど肩を震わせて泣いていた。
場所柄泣いてる人がいてもおかしくはないが、言葉にし難い違和感を感じたが
火葬場に似つかわしくない服装のせいだろうと無理矢理納得しタバコを吸った後中へと戻った。
10分弱、その女はずっと泣いていた。
そして2年前、祖母が亡くなり再びそこを訪れた。
その日もタバコを吸うために外に出たのだが、1年前と同じ場所で、同じ女が、同じように泣いていた。
今度は違和感を感じる間もなく、咥えたタバコを仕舞うのも忘れて中に戻り
2歳上の従兄弟にすぐにそのことを話した。
すると従兄弟が「昔もあそこで見たよな、女の人。叔父さんが死んだ時」と言う。
それを聞いて僕も思い出した。
それは約20年前。
僕が5.6歳で、叔父の火葬の時。
暇だったが、場所が場所なこともあり堂々と遊ぶわけにもいかず親の目を盗んで従兄弟と2人で外に出てみた。
すると、例のベンチで女が泣いていた。
大丈夫?どこか痛いの?とその女に声を掛けた。
幼かった僕は人目もはばからず、泣く大人を始めて見て純粋にその女のことが心配になったんだろう。
だが女からの返事を待つ間もなく、従兄弟が僕の手を引いて中に戻ろうとする。
歳上で体格も僕より大分大きかったこともあって逆らえず、心配しながらも僕はすぐに中に戻った。
その後外に出たことがばれた僕達は、それぞれの親に軽く叱られた記憶がある。
1年前(叔母の火葬の時)違和感を感じたのは、その服装の所為ではなく、
以前にも同じ女を見ていたからだったと気がついた。
そして従兄弟にそのことを話すと
「ちょっと待てよ」
と従兄弟が急に真面目な顔になりこう言った。
「俺がお前とその女を見た時、そいつ笑ってたんだよ」
「愉快そうに、アハハハって笑いながら、おいでおいでってしてたんだ。
だから怖くなってすぐ中に戻ったんだ。」
そんな訳は無い。
20年前も1年前も、そして今日も、確かにその女は泣いていた。
両手で顔を隠し肩を震わせて泣いていたはずだ。
途端に先ほどまでとは比べものにならない恐怖が込み上げ、2人ともそれ以上話を続けることはできなかった。
火葬が終わりバスに乗り込んだ僕は、好奇心に負けて女が座っていたベンチに目を向けてしまった。
そして見た。
僕を見て満面の笑みを浮かべ両手で手招きする女を。
それ以降、その火葬場には行っていない。