山奥のキャンパスには、文章系の部活やサークルが多く存在した。
本命にことごとく落ち、滑り止めで入った二流大学。
山奥のキャンパスには、文章系の部活やサークルが多く存在した。
失意から逃れるようにサークルに入った俺は、ただ駄文を書き散らす日々を送っていた。
いい大学に入る以外の選択肢なんてそもそも知らなかった。
明らかに未来は真っ暗で、ひたすらその事を考えないようにしていた。
一年も経たないある日、新しく建てられたばかりの校舎から人が飛び降りた。
人通りの少ない校舎裏に叩きつけられた遺体は、しばらく発見されなかったという。
手首を切ってなお死に切れず、流血したままタクシーに乗って大学までやってきて、校舎の七階まで登って飛び降りたという彼女の凄絶な死に様には、“恋愛のもつれ”という簡素な理由がおそろしく似合わなく思えた。
翌年、同じ校舎からもう一人飛び降りた。
授業時間中に校舎前広場めがけて飛び降りた彼女の影は、まるで大型の鳥のように授業をしているいくつもの教室の窓をかすめたらしい。
かなり派手な事になった。
遺体を隠したブルーシートの極端な広さの理由は、あまり考えたくなかった。
自殺した理由はわからなかった。
警察が何度か来た。
連続した同じ場所での自殺という事もあってか、関係者に聞き込みをしていった。
彼女達の所属していた文章系の研究会が取調べを受けたらしい、と聞いた。
失意を埋めるものを見つけられないまま卒業の日を迎えた。
サークルで一緒だった仲間はラノベの賞を取り、商業作家の道を歩み始めた。
たまに会って話すそいつは、同じレーベルで書いてる同窓生結構いるよ、と言っていた。
ノルウェイの森の主人公の台詞じゃないが、二流大の文学部を出たって未来なんかない。
ラノベ書いて食ってけるならまだマシな方だった。
へえ、同窓生ってどんな人、と聞くと、知らない名前が一人出てきた。
知らない?
会報で小説書いてたらしいよ。
○○研にいたんだって。
その同窓生は、しばらくの下積みを経て無冠のホラー作家としてデビューしていた。
プロフィールに出身大学は明記していなかった。
作品の舞台は学校。
しかしその描写は、あの大学そのままだった。
ストーリーの中で、理由も不可解なまま次々と飛び降りてゆく生徒達。
…彼が何かを知っていたのか、
それとも何も知らないのか、
自分の間近で起きた一連の出来事をどう思っていたのか、
周りの人間から見透かされたとしてもなお“書く”事にしたのか、
すべてわかっていてやっているのか、
それらはもう知る由もない。
しかし彼は今も、レーベルの現役作家として精力的に新作を出し続けている。
ホラーを。
あの日に想像した通りの、暗い未来の日々を送る事に疲れて、
たまにラノベを手に取るたびに、
能天気な登場人物達が直情的な行動で安易な結末を連れてくるストーリーを眺めるたびに、
ひょっとしたらその裏に本当は隠されているのかも知れない、黒い流れのようなものを思ってしまう。