学生時代の話をひとつ
ちょうど今くらいの時期だったかな?
サークルで離島に合宿に出かけた肝試しの時の事。
俺たちはその舞台に標高100mもない小さな山を選んだ。
この島、戦時中の傷跡があちこちに刻まれていて
防空壕はそこかしこにあるわ、山の中にはヘルメットみたいな
ものまで落ちてるわで雰囲気バッチリ。
頂上付近のひと際デカイ防空壕の前から出発、
山道を下って戻るというルート。
防空壕から流れてくる冷たい空気が
いやでも雰囲気を盛り上げる。
俺を含む下っ端の学生が肝試しのルートの各所に
一人ずつ、おどかし役として茂みの中に身を潜めた。
向こうから見える懐中電灯をたよりに木をゆすったり
奇声をあげたりして、おどかす事2時間。
最後の組が通過したのを確認した俺は
打ち合わせ通り肝試しの出発点に戻った。
…何の手違いか防空壕の前には誰もいなかった。
明かりひとつ持たない俺は真っ暗な山の中にひとり
置き去りにされてしまった。
あまりの暗さに帰り道も分からない。
どうしたものかと途方に暮れていたその時、
防空壕の中から人の気配がした。
ザッザッという足音だけが俺の耳に届いた。
最初は俺を脅かすドッキリかとビビリながらも
ホッとしていた俺はある事に気づいた。
防空壕の中から見える筈の「明かり」が見えない…
暗闇で目を慣らした俺でさえ何も見えないのに
足音の主は明かりも持たず足場の悪い穴の中を
こちらにむかって歩いてくる…
「ここにいてはヤバイ」
考えるより先に体が動いて
俺は近くの茂みに飛び込んだ。
足音が近づいていたが振り返らずに道無き道を
半分転がり落ちながら下山した。
擦り傷だらけになりながらも
なんとか下山した俺を光が照らした。
俺だけいない事に気づいた友人が探しにきてくれたんだ。
確認したがやはり誰も防空壕には隠れていなかった。
気味悪過ぎて出来る訳がないと
そりゃそうだ。
竹を踏み抜いて足をケガしたり
木から落ちて首の骨を折りかけた奴もいたが
なんとか無事に肝試しも終わり
夜が明けてから後片付けにいったんだが
防空壕の前に立てておいた
10本以上あったぶっといロウソクが
跡形もなく無くなっていた。
たらしたロウの跡さえ見つけられなかった。
きっと島の人が始末してくれたんだろう
という事にして、それ以上の詮索はせず俺たちは島を後にした。
長文失礼