小学生のとき、友達とよく隣町の山へ登りに行っていた。
少し荒れているハイキングコースだけど、小学生でも2~3時間もあれば頂上付近まで行ける。
いつもは2~3人で朝から登って、途中の川にある少し水を溜めるダムみたいなところで泳いだりして、夕方降りて帰るだけだけど楽しかった。
ある時、別の友達とお弁当を持って遊びに行くことになった。
男6人でいつもと違う道を登っていくと、とうとう道がなくなり山と山の間の斜面の隙間を登っていた。
小学生はなんでも楽しめてしまうから、そんな所でも笑いながら登り続けた。
実際いつも登る道とそんなに離れていないはずだけど、景色は全く違うし、登り辛い所なのでどんどん陽が傾き、その内日が暮れはじめた。
いつも登る面子と違うので慣れていないため、不安になったのかみんな「そろそろ帰ろうぜー」と斜面をズザザザーと転がりながら降り始める。
帰りも適当に山あいの斜面を降っていると、急にうんちがしたくなった。
小学生の間では皆の前でうんちしたいなんて言うと、たちまちウンコマン呼ばわりされる。自分達もするだろうに、ほんと子供だ。
そんななので皆を先に行かせ、ちょっと隠れた場所を探して野ぐそをしようと考えた。
急斜面ばかりだったけど行きに見なかった道を見つけ、そっちの方でしようと少し歩いた。
すると小屋を発見。
見た目にもかなり古臭く傷んだ小屋でまさに廃屋。
小学生の好奇心とうんちの我慢が限界に来ていたので、この小屋でしちゃおうと入ることにした。
窓のない小屋で、あるのは入り口の扉のみ。
何かの物置なのかなと、ボロいし人も居ないだろうし中でしちゃってもバレないと思って扉を開けようとした。
引き戸には鍵がついていたけど、壊れているのか鍵が開いたままぶら下がっていた。
とにかく入ってうんこをする場所を探す。外にすれば良かったのに何故かこの時は中でしないと!!と思い込んでいた。
小さな小屋だけど、中はなんか間仕切りがされていて更に狭い。
取り敢えず入った右側の突き当たりの壁際に座り込みうんこをし始めた。
ガタンッ
突然暗くなりパニックになった。
扉を閉められた!?
誰か居る!?ヤベー!!
でもうんこ中で動けない。
うんこし終わるまでに色々考えていた。
あれ?もしかして友達がコッソリついて来て脅かしてるんじゃ。
そう考えたら安心した。
「なーんだ」
暗がりの中、ボロ壁の隙間から漏れる陽でなんとかうんこをティッシュで拭き捨てズボンを履いた。
狭い通路みたいになっているので、足下も見えないし左手を壁に添えながら歩いて入り口まで進む。
誰だよ全く、と扉を引いたが、開かない。
くそっ!扉抑えてやがるな!
全力で引くが、ガタガタ鳴るだけで動かない。
なんだよ、皆で抑えて俺をからかってるのかよー。
しばらくウンコマンだなあと観念し、外に声をかけた。
「あけてくれよー」
だけど誰も返事しない。
陽も暮れ夜がやってきているのに、みんなこんな遊びをするとか馬鹿かよ。
「あけてー」
しばらくガタガタッと引くけど動かない。
ガタガタッガタガタッ ガチャン
え?
ガガ…ガチャガチャッ
扉の音が変わった。鍵かけた?
「おまえら、鍵閉めやがったのかー?おーい」
『しまってるよ』
ひっ!
いきなり返事が返ってきた。女の子の声…
ビックリしたけど綺麗な声だったので怖さはすぐ消えた。
「だれ?なんで閉めたのさ、あけてよー」
『でれないよ』
なんで知らない僕を閉じ込める真似するんだと思ったけど、よく考えたらこんな時間に山の中に女の子が居るわけない。
居たとしても家族と一緒だろうし、そしたらこんな真似しないだろうし。
「お願いだからあけてよ」
………しばらく間があってから声が聞こえた。
『むりだよ』
「うわぁぁ!!」
突然後ろから聞こえた。
暗くて見えないけど、入り口から左側の壁の奥から聞こえた。
仕切りがあるから入り口からすぐに右か左と分かれてるんだけど、そんな広くないからほんとすぐ先の壁を右に曲がったところら聞こえた。
凄く驚いて、そして怖くなった。
中に居たのか?え?でもさっき外から聞こえた声と同じ…。
なんかヤバイ、ヤバイよ。
凄く怖くなって扉をガチャガチャとゆすった。
けり破れるんじゃと蹴ったり叩いたけどだめ。
『あかないよ』
同じ女の子の声が奥から聞こえる。
怖くて声も出なくなって、ひぃっ…て感じで扉に背を向けたまま奥を見つめていた。
暗いからわからない、でもだれか居るんだ。
正直ここから現実だったのか夢だったのか判らない。
ガクブルですくんでいたら、奥の暗がりに吸い込まれるような感覚でなんか身体がフラッとそっちへ行ってしまった。
暗くてよくは見えないけど、通路を右へ曲がったら数人が入れそうな部屋になっていて、多分そこに誰か居る。
喋ろうにも声が出ず、ひっと息が漏れるだけ。
部屋の入り口で壁を支えに棒立ちのままいると、
『ィギヤィャヤァァァァァ!!!』
と目の前で大きな叫び声があがった。
「ウワアアアアアアァァァォ!!」
壁に身体をぶつけながら扉まで戻りドンドン叩いた。
『ャァァァァ!!タスケテーーー!!』
背後から耳元で叫んでいるような音量で悲鳴が聞こえた。
もう大パニックでここで失神した。もしかしたら最初の扉をあけようとしたところで失神していたのかもしれない。鮮明すぎてそうは思えないけど。
気が付くと扉は開いていて鍵もぶら下がったままだった。
だけど鍵は中まで差し込まれた状態、確か入る前は差し込まれてなかったと思う。
ヤッパリ誰か閉じ込めやがったのかな。
でも南京錠とか、鍵がないと開け閉めなんて無理だ。
あいつらにそんな事できないだろうし、さっきの女の子は中にいたし。
とにかくすぐに飛び出て元の道なき斜面を駆け降りた。
もう暗かったけど、多分19時くらいなんだろうと思った。
うちは父親家庭なので、夕食は遅いしその時間に居なくても遊びに行っていると簡単に決められて心配されない。
なのでいつもの通り道に出れて自転車で家へ舞い戻った時は、とにかく安心して自分で持ち歩いている鍵で玄関を開けてすぐに自室へ飛び込んだ。
だけど様子がおかしい。
時計が深夜2時過ぎを差していた。
ええ?さっきまで19時くらいだったのに…
父は深夜までカラオケに行っている事が多いから、この時はまだ帰ってなかった。
取り敢えずご飯を食べて寝た。
さっきの事はまた明日でいいや。
起きると父が居て、「余り遅くまで遊びに出てるなよ」と軽く怒られた。
昨晩はご飯の準備だけして出掛けたようだ。
小屋での出来事のせいで帰るのが遅くなったと話すと、父は凄く険しい顔になった。
「ハイキングコースだけにしておきなさい」
みたいな事を言われた。
この時の話はここで終わり。
次にこの事について関わったのが高校生の時だった。
昔に隣町で死体遺棄事件があったという話で盛り上がったのだ。
山の中腹にある小屋で女の子が殺されていたという話。
あの小屋の事だ!!
すぐに思い出した。
聞くところによると、小学生の女の子が時期や場所は違うが2人誘拐され、あんな場所にある小屋で監禁されてどちらも数日間猥褻行為をされた後に殺されたという。
その間に食事は与えられなかったとか、小屋の中が板で仕切られて改造されていたとか、鍵が付けられていたとか、1人の遺体はそのまま放置されていたとか、真偽は解らないが怖い話だった。
でもあそこだよな…
仕切り板の事は覚えてるし、なんか嫌な感じがしてあれ以外無いと思った。
もしかして、俺を閉じこめたのは犯人だったのかな。
んで中には監禁されていた子が居たとか。
でもそれだと俺があの時解放されたのはありえない。
だったらあれは幽霊だったのかな。
ただの夢だといいんだけど…気持ち悪いくらいにリアルだった。
文章にしたら余り怖く書けずに申し訳ない。
今でも違和感バリバリの思い出です。