高速での話
高速乗ったことあるやつならわかると思うんだけど、結構虫がフロントガラスにプチっとあたって死ぬよね。
夜は特にひどい。光に集まってくるでしょ。
俺その頃しょっちゅう乗ってたから、何万匹と殺しただろうね。中古車だったし汚れはあんまり気にならなかったけど。
その日の夜は山間の高速だったんだけどさ、聴いてたラジオもジーー…ジーーってなって、自動チューニングしたんだわ。したら、ある周波数で止まってさ。数字は覚えてないんだけど。
相変わらずジーー、ジーーとノイズがはしってるんだわ。
だけど、ノイズの中にちょいちょい低い声が聴こえるんだよね。
「あと……」てなかんじ。
なんこれ?と思ってボリューム上げたんだよ。そしたら、
「あと60匹、あと59匹、あと58,57匹…」
って聴こえるんだわ。なんだよ気持ち悪ーと思って聴いてたんだけど、
あと14匹ぐらいになって、あることに気づいたんだわ。
虫の潰れるプチプチ音と連動してカウントダウンされてんの。
「あと8匹、あと7匹」
やばいやばいなんかやばいこれゼロになったらどうなんの!やばいよ!
とりあえずとっさにブレーキ踏んだわ。
畳み掛けるようにブチブチブチッと虫を潰した音がして、車は止まった。
「あと一人…」
と声がして、ラジオがプツンと切れた。
もうこの車乗っちゃいかんと思って、車載のレンチでバンパーぶっ叩いてぐちゃぐちゃにして、自分で全タイヤパンクさせてからサポートに電話したわ。レッカー移動してもらって、最後には中古屋に引き取ってもらったよ。
俺が思うに車は命の大小関係なく殺めていい数が決まってる。最後に死ぬのは間違いなく運転手だわ。
お前ら車運転するときは気を付けろ。特に年期の入った中古車は、あと何匹かわからんぞ。