私は知っています。というのも、ネットで知ったわけではなくて、私の地元の話だからです。
なぜ今日、ここに書き込んだかというと、この話を深く探ることに警鐘を鳴らすためです。
ゴギョウ様の本当の名前は●●●●●●。
サクナナゾコじゃないかと言われていますが、それは違います。惜しいですが。
でも、それで良いのです。本当の名前を口に出したり、文字に起こしたりすれば、夢の中にゴギョウ様が現れます。
そして、ゴギョウ様の御前で泣いてしまったら、その人はもう
私の田舎では、ある神様を奉っています。大きな岩の形をしたそれは、かつてこの地を訪れた、坂上田村麻呂の碑石でもあります。
私達は、その岩を「タビラコ様」と呼んでいました。田んぼを平らにする子と書いて、タビラコです。
タビラコ様は、文字通り我々の土地の平安を保つ役割を担っている神様ですが、
もうひとつ、とても大事な役割があります。それは、地面にぽっかりと大口を開けた、斜め底の洞窟を塞ぐことです。
子供の頃から言われていたことがあります。「タビラコ様のお参りに行くときは、あんただけは絶対に泣いちゃいけないよ」
口を酸っぱくして母親から言われました。
ある正月明けの日でした。友人のAとB(どちらも男の子)に誘われて、タビラコ様のお参りに行くことになりました。
「タビラコ様のお参りに行ってくる」
と母親に言うと
「いいかい、何があっても絶対に泣くんじゃないよ」
と言われて見送られました。
2/
道中、
A「なぁB、ゴギョウ様のほんとの名前知ってる?」
Aがそう言ったのです。私は話には入らず、耳だけ傾けていました。
B「ん、ゴギョウ様って何?」
A「ゴギョウ様も知らないの?タビラコ様のお足元にいらっしゃる神様だよ。」
B「そんなの知らないよ。」
Bは、両親の都合で去年越してきたばかりでした。
A「ゴギョウ様の本当の名前は、この前知っちゃったんだよ。じっちゃんの本に書いてた。」
B「何?」
A「●●●●●●●だって。」
B「●●●●●●●?なんか汚い名前。」
A「でもな、ゴギョウ様の御前でこの名前言ったらだめだよ。岩の下に連れていかれちゃうから。」
B「怖ぇぇ」
私はこの時点で、もう帰りたかった。でも、言い出せず、渋々着いていった。
しばらくして、タビラコ様の御前まで来た。いつになくじめじめしていて、私はその場にいるだけで目眩と吐き気がしたのを覚えている。
直後だった。
A「●●●●●●●!」
Aが叫んだのだ。あの言ってはいけない名前を、
全身に鳥肌がたった。
辺りから変な歌が聞こえた。はっとして回りを見渡したのは、その時私だけだったと思う。
私には見えてしまった、周囲の木々の間から、顔がぐちゃぐちゃになった女の人達が、人?達が、私達に近づいてくるのが。
足が動かない。
助けを求めるように、aとbの方を振り返った。
3/
Bは凍りついていた。その目線の先には、
穴があった。
先ほどまでそこは、地面だった。
何かが這い上がってくる。
真っ黒な、四つ足の蜘蛛のような、
不規則に動く足?が、穴の入り口目指して這い上がって来た
「あぁうぇうぇおうああぅぇえ!!」
そんな奇声を発して登って来た。
目の端で、顔のぐちゃぐちゃになった女の人がさっきよりもより近づいてきている。
でも、
私が一番怖かったのは、それじゃない。
Aだった。
AはBをじっと見ていた。でも様子がおかしかった。
腰が抜けて、膝馬付いているBの横顔を、ニタニタと笑いヨダレを垂らしながら覗いていた。
「ナケー!ナケー!」
Aは笑い声で叫んでいた。
4/
「あぁおぅうぇおうああぇぇえ」
穴から、這い出た真っ黒な何かが、Bに這覆い被さるように見えた。
堪らなくなって私は耳を塞いだ。しゃがんで蹲った。逃げたかった。
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない
これは夢だ!
早く、早く終わってくれ、早く!
かなりの時間、そうしていたように思う。
周囲の音が、静かになった。
恐る恐る、目を開けた。
岩があった。
穴はない。
夢だったのか、
私は耳を覆っていた手をおろした。
「ナケーーーーーーーー!!!!」
耳元でAが叫んだ。
私はヨダレを垂らしながら跳び跳ねて笑うAを見て、気を失った。
5/
目が覚めると、床の間で一人、寝かされていました。
外がバタバタしています。
「Aが、ーーー呼びおった。」
「もうAはーーー」
そんな話し声が聞こえます。
一人でいたくなかった私は、ふすまを開けました。
沢山の大人達が集まっていました。
私のかおを見るなり、皆一瞬、動きを止めましたが、またバタバタと何かの支度をしはじめます。
母親がいました。
「○○(私の名前)ちょっと入りなさい」
兎に角、無事でよかった。今日のことは忘れなさい。
と言われました。
「Aくんがどうかしたの?」
「絶対に、A君から聞いたあの名前、呼ぶんじゃないよ。あなたもA君みたいになっちゃうからね、
あと、夢のなかで、ゴギョウ様に会ったら絶対に泣いちゃだめ。」
それだけ言われました。A君がどうしたのか、聞いているのに。
それだけ言って、母親は出ていこうとしました。
6/
「まって、Bくんは?Bくんはどうなったの?」
「あー、Bくん?今探してるわよ。」
パタン
ふすまが閉められました。
なんで、B君がいなくなったのが、そんなに、いい忘れるような、ついでみたいな、言い方なの?
それから数十余年、私の母親が亡くなり、あの時、何があったのか、聞くことはもう、できません。
Aも、Bも、あれ以来姿を見せません。
ただ、毎年正月明けのあの時期になると、二人の夢を見ます。
腰が抜けたBと、それをニタニタと笑いながら見つめるA。
そして、あの黒い四本足のモノ。
「あぁおぅうぇおうああぇぇえ」
奇声を発して近づいてくる。
そして私は蹲ります。両耳の耳元でAとBが叫びます。
「ナケーーーーーーー!!!!」
「ナケーーーーーーーー!!!!」
そして目が覚めるのです。
絶対にやってはいけないことが二つあります。
●●●●●●●を、口に出してはいけない。
夢のなかで、泣いてはいけない。
私は、この決まりだけを、ずっと守っています。
絶対に、●●●●●●●だけは、探らないでください。