消防時代の話。
昔、おいらの家と小学校の真ん中辺りに水飲み場があってよ。
そこが凄く狭い憩いの場で、なんつーか道路の分離帯並みに狭い。
そんなところにベンチと暗い木々に取り囲まれるようにしてひっそりと
水飲み場が建ってたんだ。
とある夏の暑い日。友達二人と帰宅途中、滅多に近寄らないその水飲み場
で水を飲むことにした。
けどおいらが水を飲んでる間、友達二人は微妙な顔してただ見てるだけ。
「飲まないの?」って聞くと二人が顔を見合わせてなんか口ごもる。
気になって問いただすと、実は前日、二人はおいらと同じように此処で
水を飲もうとしてたらしい。
「そしたら何処からか小さな男の子が現れてさ…その水飲むの?って」
その男の子は突然二人の背後に現れたのだという。
もちろん初めて見る子供だった。知り合いでもなかった。
「で、気味悪かったけど、そうだよ、何で?って答えたら
そこは『イコイコウモリさん』が飲む水なんだよ、って」
友人二人もおいらも初めて聞く言葉だった。
男の子の話によると『イコイコウモリさん』は夜な夜な子供をさらっては
疲れた喉を癒すため、その水飲み場で水を飲むんだそうな。
「そんな話聞いたこともなかったし、嘘だとは思うけど、何よりその子が
不気味でさ。それだけ言うと、笑いながら家と家の変な隙間に入って
行っちゃったんだ。近所の子だったみたいだけど見たことないよ」
それ以来、おいらたちは何となくその水飲み場を避けた。
それだけっちゃあそれだけの話なんだけど、実はつい最近
道路拡大でその水飲み場が壊されてね。
『イコイコウモリさん』ももう水飲めないなー、なんて考えてたら
水飲み場だけ復活してた。
他は全部真新しいのに、水飲み場だけ昔のまま建ってた。
余り怖くないかも。ゴメン。