小学校四年ぐらいの頃クラスメイトの一人と変な友達にそんな話をしているとクラスメイトが
「肝試しいこうぜ」と言い出した。
小学校から歩いて暫くしたところには城跡を保存した公園があって、そこに幽霊が出るという
噂が立っていて、曰く口裂け女が走って追いかけてくるなど正直眉唾物の話だった。
小学校から歩いて暫くと言っても俺の家からは反対方向にある公園だったので俺は行ったことが
無かったのだが、噂の真偽はともかく小学生の頃放課後はいつも暇だったので、クラスメイトと
友達と俺でその公園に行くことになった。
友達はニタニタと気持ち悪い笑顔を浮かべながら「じゃあ今日学校から帰ったらすぐ
○○公園の前に集合な」といつの間にか場を仕切っていた。
幽霊が見えるだけで特に怖い話に詳しいというわけでもなかった俺は塩があれば悪霊は
追い払えるだろうという曖昧な知識により袋に塩より先に目に入った岩塩を入れたものを
三つ用意し、正月に買った開運お守りを持って公園に向かった。
公園の入り口にはもうすでにクラスメイトと友達が立っていて、友達は約束したときの上機嫌は
どこへやらと言った様子で「遅い」とだけ不機嫌に言った。
クラスメイトがそんな友達をまあまあと宥めて早く行こうぜと言った。
場を収めようとしたというよりかは早く幽霊を見てみたいという様子だった。
俺はそんな二人に岩塩の入った袋を手渡した。友達がなんだこれと言うので説明したが特に
興味は無さそうだった。クラスメイトは爆笑していた。
幽霊が出る噂がある割りにその公園には幽霊がいなかった。他の普通の場所より幽霊の数が
少なかったぐらいだ。
これは噂が嘘どころか寧ろ噂が正反対のまったく幽霊の出ない公園ではないのだろうかと
思い始めたものの、とりあえず学校の女の子が幽霊を見たという場所に行くまでは
帰らないことにした。
階段を上って大きな池が見えてきた。その時、一気に空気が重くなった気がした。
同時に頬というか、右の肩というか、そのあたりにひやりと冷たいものを感じた。
前述したとおり冬だったから寒いのは当たり前なのだが、表現し難い冷たさだった。
重くのしかかるような、という表現が一番合うかもしれない。
慌ててクラスメイトと友達のほうを見るが、クラスメイトはまったく何も感じていないらしくあたりを
キョロキョロと見回している。一方友達は何を考えているのか嬉しそうにニタニタ笑っていた。
感じた事の無い寒気だったので正直もう帰りたかったが、ここで帰っては笑われることが
必然だったので見栄を張って表には出さなかった。
池の脇を通って奥へ進んでいくと空気がどんどん重くなってくる。
帰りたくてこれみよがしにため息を吐くがクラスメイトはそれにも気づかない。
友達はわざと無視している気さえする。
池の脇の道はいわゆる木のアーチが覆っていて相当暗い。俺の気持ちも相当暗かった。
プライドをかなぐり捨てて帰ろうと言うか悩んでいるうちに空気はどんどん重くなっていく。
そして道を抜けたとき、息を飲んだ。奥の橋の脇にある道に大人が座り込んでいた。
ぱっと見男のようだったが直視したくなくて目を逸らす。無意識に冷や汗が出た。
クラスメイトは「やっぱこの時間誰もいねーんだなー」などと暢気な声を出して橋の脇にある
道に進もうとする。見えていない。
要するにあれは、幽霊なのだ、と認識して一気にゾクリとする。
こんなホラー映画に出てくるようなやばい感じの幽霊は今まで見たことがなかった。
慌ててクラスメイトを引きとめようとした手を友達がつかむ。そしてそのままクラスメイトが
進むほうへ俺を引っ張った。
何しやがんだこいつと友達を睨みつけようとしてまた硬直する。
今までに見たことがないほど嬉しそうな表情を浮かべていた。
そのまま石の敷かれた道を抗えずに進んでいく。空気が重い。足がガクガクと震える。
暢気なクラスメイトがうらやましかった。
男がどんどん近くなっていく。男は俯いていた。顔が見えない。俯いていたからじゃない。
まるで子供の落書きのように顔の周りの空間だけ黒く塗り潰されていた。
引き返したいのと早く通り過ぎたい。両方の気持ちが葛藤して結局歩き続けた。
男がすぐ左脇という場所まで来たとき突如黒い落書きが動いた。顔を上げようとしている。
それと同時に友達が袋に入った岩塩を黒い落書きに落とした。
その瞬間甲高く黒板を爪でひっかいたような音が響いた。不快な音だ。咄嗟に耳を塞いで俯く。
それと同時に何か破れるような音がした。
クラスメイトが突然俯いた俺に対して「どうした?」と声をかけた。
おそるおそる立ち上がって左を見ると、そこには何もなくただ草がぼうぼうと生えているだけだった。
続けて友達を見る。先ほどとはうってかわってつまらなさそうな表情をして俺を見た。
「もう帰ろうか」
とだけ友達は言った。
クラスメイトは不満そうな表情をしていたが俺もが帰りたいと言ったので「なんか見えたのか?」と
聞いてきた。答える気はしなかった。
帰るとき友達は入り口の近くにあったゴミ箱に岩塩の入っていたポリ袋を捨てた。中身は空だった。
翌日ようやく文句を言うだけの勇気が出たので別クラスの友達と会って文句を言った。
「あれなんだよ、お前見えてたんだろ」
友達は短く知らねーよとだけ答えた。俺は続ける。
「は?」
「だから、顔のあたりにあった黒い落書きみたいな、あれ」
「何言ってんだお前?」
「だから!顔の黒いやつのせいで顔が見えなかっただろ!」
友達が不思議そうな顔をして、
あいつはずっとこっち見ながら笑ってただろう
と言った。
俺は絶句した。猛烈な吐き気を覚えた。そして友達が俺より霊感がずっと強いことを初めて知った。
この経験で得たものは二つで、「友達は霊感が強い」ということと「悪霊には岩塩が効く」と
いうことだけだった。
今振り返って文章にしてみればなにかとあほらしい体験だったが相当なトラウマになるほど
怖い体験でもあった。
そのトラウマをもとにして友達と肝試しに行くときは必ず岩塩を持ち歩くことにした。
見れば見るほど創作っぽい話だったがおわり
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