姉ちゃんと一緒に婆ちゃん家に行った時、変な経験をした。
婆ちゃん家は海の近くにあったんだけど、姉ちゃんの車を停める場所が家にはなくて、海辺に車を停めることにしたんだ。
人の邪魔にならない場所がここしかなかったから。
色々行事が終わって家に帰ろうという時にはもう夜だった。
月明かりの下、海辺に向かって姉ちゃんと二人歩いた。
あたりには誰もいなかった。
それから何となく段々と右足首が重くなって、段々と歩くスピードが落ちた。
どんどん遅くなり、最早すり足の牛歩になってるのに、姉ちゃんはこちらを見ない。
姉ちゃんは変わらないスピードでスタスタ歩いてしまって、差が開き、とうとう姿が見えなくなってしまった。
ここに来ていよいよ不味いことになったと思ったけど、止まるのはもっと良くない気がして牛歩でも歩いた。
暗いあぜ道を気配を感じつつ牛歩で歩くのは、とても長く感じたし辛かった。
ふと、ある場所で嘘のように足の重さが消えた。
途端に急ぎ足、10歩も歩けば車についた。
車には姉ちゃんがエンジンふかしつつ待っていた。呑気に。
車の中ですぐに姉ちゃんに抗議した。
置いてくなんて、遅く歩くのを気づきもしないなんて薄情だって。
姉ちゃんは驚いてこう言った。
姉ちゃん:「だってアンタ、女の人とおしゃべりしながら歩いてたじゃない!だって、女の人と肩を組みながら喋ってたじゃない。だって、あんなに熱心に喋ってたじゃない。邪魔になるといけないから先に行ってただけなのに」
引きつった顔で、姉ちゃんに自分は一人だったこと、足が重くて歩けなかったことを話した。
その後の車のスピードは言うまでもなく速かったし、途中のコンビニで塩を買ったし、
婆ちゃん家に電話して、親戚と一緒ではなかったことを姉ちゃんに証明したりした。
足の重さが消えた『ある場所』には小さな祠があった。
「この祠はご先祖様を祀ったものなのよ」と説明してくれた。
ご先祖様が幽霊から救ってくれたのか。
それとも女の人こそがご先祖様で、祠までの帰り道を一緒に歩いただけなのか。
それはちょっと分からないけど、手を合わせた。
どちらにしろ、お盆の霊は海や川を渡ってあの世に帰って行くらしいし、いくら駐車スペースがなくても海辺に車を停めるのは良くなかった。