時々遠近感があいまいになったり、周りの物が大きくなったり小さくなったりする感覚になる。
大抵の場合、じっとしている時に起こるから日常生活に支障はないし、頻度としてもそれまでは1ヶ月に1~2回ってところだった。
で、数年前、大学生の時のこと。
夜ベッドに座って壁により掛かるような感じで座って携帯をいじってた。
携帯からふと視線を外して正面の本棚を見ると、アリス症候群が起こった。
本棚がゆっくりと小さくなっていって、自分が大きくなったような感覚になる。
嫌な感覚でもないし慣れてたから、そのままぼーっと本棚を見ていた。
次の日、友達と二人で大学の授業に出てた。
大きめの教室の真ん中辺りに友達と並んで座って、左隣りに友達が座わり、右隣りは空席だった。
ノートを取りながら教授の声に耳を傾けていると、またアリス症候群が起こった。
今度もノートやシャーペンがどんどん小さくなっていき、自分が大きくなる感覚のタイプだった。
「昨日も起こったのになぁ・・・」
なんて思いながら、目を何度かまばたきさせて軽く右側を見た。
左には友人がいたからだと思う。
でも遠近感は治らなかった。
あれ?と思ってもう一度やり直した。
すると右耳のすぐ横から「ねぇ」って女の声が聞こえた。
驚いて軽くはね上がり後ろを振り返ると、知らない男子学生と目が合った。
気がついたらアリス症候群は収まっていて、キョロキョロするも近くに女子学生はおらず、あせっていると友人が「寝てたの?」と小声で話しかけてきた。
ビクンって跳ね上がったから寝てたと思われたらしい。
その日の夜、ベッドに仰向けになって携帯をいじっていた。
するとまたアリス症候群。
天上がぐんぐん遠くなっていき、自分が小さくなったような感覚になる。
昼間のこともあったからすぐに直そうと思ってまばたきをしつつ首を少し回した。
するとベッドのフチあたりに巨大な顔があった。
よくホラーものに出てくる青白い顔。
巨大に見えるのはアリス症候群のせいなのか分からない。
パニックになって起き上がるも、アリス症候群が治らない。
巨大な顔は無表情でこちらを見ながらカクカクと左右に動いていて、周りの物が全て大きくてよけいにパニックになる。
とにかく視線や焦点をずらなさきゃと思って、近くに落ちてる携帯を拾う。
手に持って画面を点灯させてそこを必死に見る。
それでも巨大な顔は、視界の端でカクカクと動いていて、耐え切れなくなって目を閉じた。
何秒かわからないけど、とにかく強く目をつむっていた。
携帯を持つ手が小さく震えていることに気がついた時、右耳のすぐ横で囁くように「惜しかったね」と女の声が聞こえてきた。
驚いて体がはねたけど、反射的に右を見た。
しかし何もおらず、耳に嫌な感触が残っているだけだった。
それからアリス症候群が怖くて、じっとしているのが苦痛になった。
じっとしているとアリス症候群が起こってしまうかもしれないと恐怖・・・。
それでも大学の授業は受けなきゃならないし、数日間アリス症候群におびえながら大学に通ったけど、何も起こらず2週間以上が経過した。
バイトもない夕方、自宅のリビングでぼーっとテレビのニュースを眺めてたんだけど、何となく嫌な予感がすると思ったら、案の定アリス症候群が起きた。
テレビがどんどん大きくなっていって、自分が小さくなる感覚におちいる。
やばい!やばい!
焦ってまばたきをして大げさなくらいにキョロキョロする。
でも治らなかった。
無理にでも歩いてしまおうとしたけど、なぜか足が固まって動けない。
テレビのニュースキャスターの声だけが大きく聞こえてきて、うるさく感じた。
はやく遠近感を直してしまおうとムダにキョロキョロしていると、ふとすぐ右側に、この間の巨大な顔が現れた。
すぐ右側でカクカクカクカクと左右に小刻みに動いている。
恐怖で飛びのきたかったけど、体が動かなかなく、思いっきり視線を左に向けて顔を見ないようにした。
でも右からカクカクと動いている気配がする。
絶望的な気分になって、目をつむって下を向いた。
心のなかで「消えろ消えろ消えろ」と何度も繰り返した。
そしたらどんっと右肩に何かが当たった。
その何かがゆっくりと動いて、そして右耳のすぐ横で「あーあ、もう少しだったのに」って言われた。
すっと肩が軽くなって、恐る恐る目を開けると、通常通りのリビングだった。
巨大な顔もいなくなっていた。
これを最後に今日までアリス症候群にはなってない。