ほんとド田舎で周りは田んぼと山。
まぁ当時ガキだった俺には、昆虫採集が出来て楽しかったが。
でも爺婆に『あそこだけは行ってはいけん!』と何度も言われた場所があった。
それは裏山の中腹にある祠(防空壕?)だった。
行ってはダメと言われれば、やっぱ行きたくなる。
ある日俺は、クワガタを捕りに行くと嘘をつき、その山に入った。
獣道を10分程登ると祠がある。
(力士の化粧回しぽい)
とりあえず、外から中を覗き込んだが、入ってすぐに数段の降りる階段があり、その先は少し広めの空間があるように見えた。
とりあえず、白い綱を股がり、中に入った。
入った瞬間に、夏なのに中はメチャ涼しい、てか寒いぐらいだった。
苔の生えた階段を降りると、外から見た通り、若干横幅が広がっていて、更に奥まで続いていた。
しかし、奥は真っ暗な上に、風の音が反響して、なんとも不気味で、昼間だったが、その時は怖くなり、すぐに引き返した。
明くる日、どうしても祠の事が気になり、懐中電灯を片手に、もう一度、祠へ出向いた。
祠手前で周囲に誰もいないことをよく確認し、素早く入った。
階段を降り、直ぐ様、懐中電灯をつけ、奥を照らした。見たところ奥行きは10メートル程だろうか、、、もう少し前進しないとはっきり見えないが、何やら奥にも、入り口にあったのと同じような白い綱のようなものが見えた。
反響する風の音『ゴォー・・・』に合わせて、その綱が少し揺れているのが辛うじて見えた。
出来るだけ懐中電灯を握った右手を前に伸ばして。
2メートル程進むと、白い綱がはっきり見えた。
更にその奥には木の観音扉があった。
『ただの変わった神社かな?』と思い、懐中電灯でその観音扉を照らしてみた。
その観音扉、閉まっているんだが、障子みたいな感じで枠組みがあるんだが、障子紙自体はボロボロで中が丸見え。
何やらお供え物があったであろう食器類や、蝋燭立て、そして中央奥に変色して所々緑がかった丸い鏡があった。
『ゴォー・・・』と風の反響音と共に
『ギィ・・・』と軋む音がした。
振り返り懐中電灯を照らすと、観音扉が片方、ゆっくりと開きだし、
『パサッ』と白い綱も片方だけが落ちた。
俺は全身に鳥肌がたち、ビビりすぎて、声は愚か、一歩も動けなかった。
その時、観音扉の中の鏡のなかに何やら動くものが見えた。
小さな小さな白く動くものが・・・
懐中電灯の灯りが反射してハッキリは見えないが、何かが鏡の中で動いている…
いや、よく見ると、鏡の中ではなく、鏡に写る俺の頭部、の後ろ…
つまり、俺の後ろに何かいるのが鏡に映っていた。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、…』と何度も言った。
その白い何かは、しばらく俺の背後で活発に動いていた。はっきりとは見えないのだが、なぜか背後にピタリと寄り添うよういるのがわかった。
人影?のように見えた。
俺は鏡から目を反らすと、その瞬間にその白い人影?に襲われる気がして、目線から指先爪先まで微動たり出来なかった。
鏡越しに背後の人影は、激しく手?(腕)をメチャクチャな感じで振り回し、気でも触れたかのような感じで暴れているように見えた。
何分間、いや、ほんとに、時間の感覚が解らず、とりあえず『ごめんなさい、』と念じていたら、少しずつ、その白い人影は霧のように消えていった。
その瞬間俺は地面だけを見て、一目散に抜けかけた腰と、ガクブルな足で走って逃げた。
帰ってからも爺婆にはその事を告げなかった。
(約束を破ったことで怒られるのが恐く)
それから数年たち、俺が社会人になってから、爺が他界した。
もちろん葬式は田舎の爺宅で行われたのだが、爺の田舎では葬式の晩に、村の者が集まり、夜通し酒を飲み、明るく死者を送るしきたりがある。
俺も地元のオッサンらと酒を飲み、いろんな事を話しているとき、ふと祠について聞いてみた。
みたいな感じで。
すると、それまで騒いでいたオッサン連中の顔色があからさまに変わった。
『防空壕だ・・・』と一人のオッサンが言った。
しかし、べろんべろんに酔った地元の青年が
『あ、俺、あれの噂!ガキの頃聞いたことあるさ、昔、○○○゛○なオナゴさ、あそこに・・・』
すると、すぐ横にいたオッサンが『何バカな事言うとる!変な話するでね!飲み過ぎだオメー!』と、その若者を羽交い締めにして表へ連れ出した。
俺はすぐにピンときた、と言うか話が繋がった。
あの時、俺が振り向いていれば、今頃俺はここには存在しないだろう。
もちろん、その祠に入ったことは誰にも言ってない。
『白い何か』
ではなく
『半狂乱な色白の女』
が両手をデタラメに振り回しながら立っていたのです。
あの祠に祀られていた彼女。
彼女は最後、霧のように消えていったのですが、成仏したのでしょうか?
それとも、白い綱(今思えば白い綱に垂れ下がっていた白い布は呪符?)が外れたことにより、祠から解放され、今も何処かをさ迷っている、
あるいは、自分をそのような境遇に合わせた人物を探しているのでしょうか?
今でもあの日の事を思い出すと全身に鳥肌立ち、眠れません。
正直わからないけど、察するに
封印は彼女に取っては暫定とはいえ安堵だったんじゃないかな
今彼女は再びさまよってるのでは?
成仏できればいいんだけどなぁ