大学生活にも慣れて、その時つるんでた仲間と肝試しに行こうということになった
ちょっと昔の話を
大学一年の夏のことだ
大学生活にも慣れて、その時つるんでた仲間と肝試しに行こうということになった
場所はあの有名な心霊スポットのI森
仲間と言っても野郎3人組で、その中に一人『自称』霊感持ちがいて、あそこはヤバいだのなんだとテンプレみたいな台詞を言ってた
そんなこと言いつつ、結局ついてくるんだけども
その時の俺としては、その『自称』霊感持ちが一番不安だった
だって、見える見えないは別にして、間違いなく「あそこに誰かいる」とか言い出すし、無駄に恐怖を煽ることを言ってくると思った
俺は零感だけど幽霊は信じてて、それ故に幽霊がいるという証拠が欲しかった
証拠と言っても、万人が納得する証拠じゃなくて、自分自身が「やっぱり幽霊はいるんだ!」と思える証拠が
そんな中で無駄に恐怖心を煽られたら、多分、そうじゃないものを「幽霊」だと誤認しそうで嫌だった
某シリーズで言われてた「恐怖心から見る幻覚」ってやつ
残念ながら俺はメガネじゃないから、それが幻覚か本物かなんてわからないから
ともかく、結局3人でI森に行ってみる話はまとまった
いざI森(の入り口まで向かう階段)まで着いたら、やっぱり薄気味悪い感じがして、躊躇した
案の定というか『自称』霊感持ちは幽霊がいるだのなんだの言い出して、イラッとした
もう一人はやっぱりやめようかとか言い出すので、仕方なく俺が先導して行くことになった
3人とも懐中電灯常備+自分はヘッドライトも装備してた
まず思ったのは、ひたすら階段が長い
角度的には割と緩やかな場所が多いんだけども、大分長い
階段の無い道も歩き辛くて、別の意味で怖かった
怖さを紛らわせるためか、3人でしょうも無いことを話ながら登って、何事もなく慰霊碑まで辿り着いた
本当に何も起きなくて、みんなで拍子抜けだなぁみたいなことを話した気がする
それから、俺は慰霊碑の文字を一通り読んで、奥に進もうと思った
けど、『自称』くんが「これ以上ヤバい」と散々駄々こねて、仕方なく戻ることにした
ヤバいって……さっき手を合わせた人達に失礼だと思わないのか
そんなことを思いながら、来た道を引き返す
何も起きなかったのが幸いしたか、帰りは行きよりもみんな口数が多かった
それがまずかったんだと思う
その時は、先頭俺、間に自称、最後にもう一人って感じで歩いてたんだけど、
突然最後尾の一人の懐中電灯が消えた
そいつは「あれ?」とか言いながら懐中電灯をいじり出す
俺は「霊的な現象か?」とか怖さ半分期待半分でその様子を見てたけど、自称くんは完全にびびってた
で、懐中電灯が消えた奴が、なんとなしに後ろを振り向いて、突然叫んだ
もう自称くん大パニック
俺の腕をひっつかんでそのまま走り出す
自分はもう一人の友人の後ろに何がいたのかわからないまま、引っ張られて一緒に走り出すはめになった
やばかったのは、そこは足場の悪い階段だってこと
予想通り、自称くんはすっ転んだ
……俺の腕をつかんだまま
結局俺も一緒に転んで、自称くんの上に倒れこんでしまった
幸い、段差が緩やかな方の階段だったからそのまま転げ落ちて大怪我確定なんてことにはならなかったけども
で、その後ろから先ほど突然叫びだした友人が「大丈夫か!?」とか言いながらやって来た
懐中電灯を点けて
結論から言うと、大分怖さが薄れて気が大きくなったそいつのイタズラだった
懐中電灯を消して、電気がつかなくなったフリをする
そしておもむろに後ろを振り向いて、まるでそこに何かがいたようなフリをして叫ぶ、というもの
実害を被った自称くんは半泣きで怒ってた
俺は「いいから帰るぞ」って少し足を速めて帰り道を進んだ
後ろの二人は車につくまで、ひたすら口論をしていた
俺にとってはそれが少し救いだった
……さて、何で俺は自称霊感持ちの友達の『自称』をわざわざ強調したかについて話そうと思う
あの日、俺は、俺だけが確かにこの世のものとは思えないものを見た
自称くんのせいで転んだ時、俺は地面に目が3対あるのを確かに見た
自称くんに引っ張られて近づいてくる地面に、こっちを見てる3対の瞳を確かに見た
一瞬の事だったし、見間違いだと言われても構わない
俺は確かに見たのだから
その後は、多分俺だけが妙な視線を感じていたのだと思う
二人ともそんな様子は微塵も感じさせなかったから
というか、おそらくその視線は、3対の瞳を見てしまった自分が感じた幻覚染みたものだったんだろう
後で自称くんに霊はいなかったのかと聞いたら、「行きはいっぱいいたよ」と言っていたが、帰り道については何も言わなかった
行きに見かけた幽霊というのも、何故かみんな髪が長くて白い服という怪しさ全開のテンプレ幽霊
そこで、実は帰り道で転んだ時に「地面に顔があって笑っていた」という嘘をついた所、後付けのように「そういえば、あの時誰かに足を掴まれた」だの「帰り道で笑い声が聞こえた」だの見事に俺の嘘に乗っかってくれた
でも、俺が見た3対の瞳に関しても、その後感じた視線に関しても何も言わなかった
もしかしたら、本当にテンプレ幽霊がいたのかもしれないし、何物かが自称くんの足を掴んで、笑っていたのかもしれない
俺が見たのは見間違いで、彼が見た物が正しいのかもしれない
でも、俺の中ではあの3対の瞳は本当で、彼は『自称』霊感持ちだ
だって、彼が本当の霊感持ちだとしたら、俺の見た物が見間違いになってしまう
俺は確かに見たと自信を持って言える
それを他の人に信じて貰おうとは思わない
そうすれば、彼らは実在したのだと、少なくとも俺の中では言い切れるから
で、それから時々ふとした時に目があるのを見るようになった
天井とか、壁とか、床とか、ひどい時には目をつぶった時の暗闇の中
多分、あの場所で見たものでは無くて、幻覚とかそういうものだったんだと思う
その目はすぐ消えるし、そのうち見えなくなったし
なのに、昨日トイレの蓋を開けたら、蓋の裏に目があったのね
久々だったからすごいびびった
最後に、ただの持論
あの目が零感の俺に見えたのは、俺が幽霊を見たいと、見ようと思っていたのと同様に、
幽霊達も人間を見たいと、見ようと思ってたのかもしれない
好奇の目を向けた対象に……好奇の目を向けられていただけだったのかもしれない、なんて