その日は結構久々に、昔の知り合いから連絡があって、高校生の時に仲良くなった一つ下の後輩なんだが、久しぶりに酒でも飲もうっていうんで、家に遊びに来いって言うんだ。
その日は結構久々に、昔の知り合いから連絡があって、高校生の時に仲良くなった一つ下の後輩なんだが、久しぶりに酒でも飲もうっていうんで、家に遊びに来いって言うんだ。
後輩の家には、高校生の時にはよく遊びに行っていた。
後輩は地元に住んでて、俺は他県に出てる、といっても隣県なんだが、親にも数年会っていなかったし、次の休みに帰るか、と、後輩に遊びに行くことを約束した。
久々に帰省して、久々に親に顔を見せて、ご飯作ってもらったりなんかした後に、久々に後輩に会ったわけだ。
後輩の家まわりは、何だか静かで、ちょっと不気味に感じたのを覚えている。
その時は些細な感覚で、気にしなかったけど。
高校生の時に遊びに行った時には、おばちゃん達が喋ってたりとか、子供が走り回ってたりとか、わりとひと気があったんだよな。
まぁ、普通の田舎だ。
後輩に、おーなんか痩せたなお前、なんか言いつつ、家にあがらせてもらった。
家の中は綺麗に片付けてあるなって感じで、普通。まぁ当たり前だけど。
家族の人は出掛けてるらしく、後輩以外の人間がいる気配はなかった。
後輩の部屋は模様替えをしていて綺麗になっていて、前の面影はほとんどなかった。
色々お互いのことを話して、ゲームして、酒飲んでた。
大分話し尽くして、すっかりくつろいだ時に、後輩がふっと切り出した。
「実は、大分前から、近所から嫌がらせ受けてて」
えっと思って聞くと、冗談ではなくて、それも思ったより程度がひどかったみたいだった。
最初は○家という、隣家の逆恨みから始まって、そこが近所中に、ないこと触れ回ったらしかった。
特定されたくないから内容は伏せるが。
俺は後輩と後輩の家族が心配になって、どうするんだ、と後輩に言った。
すると後輩は、
「あ、今現在の話じゃなくて。もう終わった話なんだ。」
と、ゲーム片手にケロリとして言った。
「終わった話って...」
「○○さ、ここに来るまでの間に誰かに会った?」
「そういえば誰もいなかった。いつも×家のおじさんとか、いるのに」
後輩は、しばらく黙った後に、全滅した、と言った。ゲームの話ではなかった。
どういうことかとたずねると、後輩は、立ち上がって、ちょっと来て、と言い、部屋の外へ出て行く。
階段を降りて、一階の倉庫になっている部屋に行き、そこも初めて入ったんだが、倉庫の奥にもう一つ木の扉がついていて、後輩はそこを開けた。
そこは畳一畳だけの部屋で、奥の方に、ひなまつりで使うおひなさまの簡易バージョンみたいなのが、すすけて置いてあった。
ほとんどボロボロだし、異様な雰囲気で、何でこんなもの置いてあるんだと、ぎょっとした。
よく考えると後輩は一人っ子で、それも男だから、おひなさまなんて。
いやでも、母親が?
何するんだ?と後輩に、若干引きつつたずねると、○○はそれ以上この人形の近くに来ちゃいけないから、と、忠告される。
「この人形、古いだろ。でも、ずっとこの家にあったものってわけじゃないんだよ。
多分、俺が子供の頃にこの家に来たのかな。
昔、こんなこと言うと馬鹿馬鹿しいんだけど、人を殺すようなまじないのために作られたそうなんだ。
本来なら、まじないの後に燃やしたり、何らかの処分をしないといけないものだったんだけど、これはそのまま残ってしまった。
それも、呪いは完成して、成功した後にね。
強い呪いに色々なものが付着してしまってて、手に負えなくなってしまったんだって。
ただ、いつも悪さをするわけじゃなくて、ここ、色々工夫がしてあるんだけど、まぁ、条件が揃わないようにしておけば、この状況下なら、大丈夫だったんだ。
○家と、それから○家のでっちあげの中傷を信じた近所中に、俺たち家族は毎日ひどいことを言われたり、されたよ。
俺の家族もだんだんまいっていった。
俺、我慢できなくてさ、ここへ来て、この人形に、手合わせて願ったんだ。」
後輩はそう話した。ずっと無表情で。
特に祖母には、殺されるくらい怒られるんだろうと思ってたけど、結局誰にも何も言われなかった、と、後輩は言った。
「外、まったく静かだっただろ。どこの家も、ひと気がなくてさ。俺、人形に何を願ったかわかるか?」
「やめてくれ。」
後輩も、状況も、その時は全てが異様な雰囲気で、俺は思わずそう言った。
たちの悪い冗談だろ、と、笑い飛ばせるような感じじゃ全くなかった。
その後は、酒もそこそこにおいとましたよ。
周りの家、よく注意して見たけど、やっぱり、誰も住んでいないようだった。
どこもかしこも。
あれから後輩に連絡しても、繋がらない。
行く気にもならない。