町でも有名な心霊スポットだ。
ある年の夏の日、自分は友人を誘ってそこへ向かった。
夜なのに蒸し暑かったのを覚えてる。
廃校の近くまでは車で行けるが、土地は手入れもされていないので、後は徒歩。
腰の高さまで生い茂った草、じめっとした纏わり付く空気、蛙の鳴き声。
5分程歩いただろうか、廃校が見えた。気味が悪い。正に田舎の廃校といった感じだ。
「行くか」
懐中電灯の明かりが、入口を見つけた。
が、板が打ち付けられていて、入れない。
やむを得ず他の入口を探していたら、教室だろうか、窓が割れている。
そこから入る事にした。
明らかに空気が違う。一瞬動きが止まった。
特有のカビ臭さ、倒れた机や椅子。
そんなんじゃない。
空気がどんよりと重い。
ジメジメした熱さに、ひんやりとした汗が垂れるのがよく解る。
ごくりと息を飲む。
教室内は、荒らされている。明らかに誰かが荒らした跡だ。
スプレーの落書き、空き缶、タバコの吸い殻。
廊下にでる。この廃校は幾つかの教室、小さな体育館、便所が一カ所、規模は小さい。小学校だ。
一通り、教室は見回ったが、どこも同じような感じだ、安心する反面、正直腑抜けた。
「ここで最後か」
体育館だ。
後悔した。こんなとこ来るんじゃなかった。
散乱した、空気の抜けたボール。落書きがひどい。
「まずい、帰ろう。」
友人が言う。
「気持ち悪い。」
どうしたと聞いた。
友人はカタカタと奮え、何かいる。と言う。
辺りを見回すが、自分には見えなかった。しかし、友人の常ではない様子を見て、
自分も急に怖くなった。
「…帰ろう。…帰ろう。」
友人は、腰を抜かしその場に座り込んでいたので、肩をかそうとしたその時だった。
友人の肩に何かが乗っかっている。
すぐに解った。手だ。明らかに手がある。
自分のでも、友人のでもない。子供の手だ。
自分は友人を抱き抱え、体育館の出口に向かった。
体育館から出て、すぐに扉を閉めようとした。
狭くなる体育館の景色の最後に、それはいた。
頭の、顔のでかい子供だ。月の明かりが透けて見えた。左右の長さの違う手。短い足。
あくまで、想像だが、師匠シリーズの「ともだち」に出てくる化け物のような感じだ。
友人を抱えながら、死にもの狂いで廃校を抜け出した。車までの距離が、いやに遠い。
自分の心臓の音、友人のぐずる声、吐息がよく聞こえる。
急いで鍵を開け、車に乗り込み、車を出した。
友人は、車の中でゲーゲー吐いている。
本来なら、怒鳴り込むが、今は状況が状況だ。
何分走っただろうか、見慣れた景色が見えた頃には、友人は落ち着いていた。
「すまん、吐いた。」
「いや、いいよ。」
途中でコンビニに寄り、水を買った。自分は一気に飲み干す。
友人は口を濯いでいた。
「吐いたから、腹が減った。ラーメン食いに行こう。」
あれはなんだったのかは、全く解らない。
だがあれは二度と見たくない。
ラーメンを食べ終わったあと、車の窓を全開にして洗車場に向かった。
以上です。