「きじょさん」って呼ばれてるモノがいる
必ず履物を外側に向けて揃えて脱いで家に上がるという風習がある
そうしなければきじょさんが家まで上がり込んで来てしまうことがあるのだという
仮にきじょさんが家に上がり込んで来てしまうとどうなるか?
葬儀の夜、その人間の夢枕に黒く塗りつぶされた顔に黒尽くめの喪装の人物が現れる
夢枕に立ったその人物(きじょさん)は問いかける
「汝、きじょ也しや?」
その問いかけの答えを待つことなくきじょさんは姿を消して夢から覚める
その後はしばらく何も起こらないが、四十九日の真夜中に今度は夢枕にではなく
実際の枕元に再びきじょさんが現れ問いかける
「汝の右腕、如何にして動かしたるか?」
その問いに呼応して右腕が動かなくなる
続けてきじょさんは問いかける
「汝の左腕、如何にして動かしたるか?」
その問いに呼応して左腕が動かなくなる
続けてきじょさんは問いかける
「汝の右足、如何にして動かしたるか?」
その問いに呼応して右足が動かなくなる
続けてきじょさんは問いかける
「汝の左足、如何にして動かしたるか?」
その問いに呼応して左足が動かなくなる
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「汝の心の臓腑、如何にして動かしたるか?」
その問いに呼応して心臓が止まる
このようにして翌朝には原因不明の心不全の死体が出来上がる
ただ、きじょさんが家に上がりこんでしまった場合の対処方法も存在する
きじょさんが最初に夢枕に立った翌日から四十九日までの間
毎日帰宅した時に履物を外側に向けて揃えて脱いでから家に上がればいい
そうすると四十九日の真夜中にきじょさんは現れるが
「努々些事を疎かにすること莫れ」
と言い残して何もせずに去ってゆく
地元でずぼらな人間に対する戒めが迷信と化したものだと個人的には思ってるが
ウチの爺さんが
「ここ最近きじょさんが夢枕に立ったって話をめっきり聞かなくなったなぁ
もしかして余所にでも行ったんかいの?」
と言ってたのが少し気になる
よくお悔やみは続くって言われるが、地元でしか聞かない話だし
まさかコイツのせいではないとは思うけど
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