アパートに帰っていつものようにPCをつけてなんとなく過ごしていると
ふと、異臭が漂ってきた
物が腐ったような、それでいてどこか懐かしいような臭い
辺りを見回して見るが、臭いの原因になりそうなものはなかった
その日はそれで忘れた
次の日、アパートの玄関を開けるとまたあの臭いがした
どこから臭いのだろうとゴミ箱の中や流しの下を見るが、異常はない
しばらくすると臭いはふっと途切れた
そしてまた次の日も同じようにふとした時に臭いが漂ってきた
徐々にその臭いは強くなっているようだった
隣室に何かあるのだと思い大家さんに相談してみることにした
夜にも関わらず大家さんは快く原因調査を引き受けてくれた
マスターキーを持った大家さんと今は空き家になっている隣室に入った
埃の匂いがする
しかし、特になんの異変も異臭もしない
次に上の階に行くことにした
自分の上の部屋の住人とは交流もなく、どんな人がいるのかも知らなかった
チャイムを押しても反応はない
念のためということで、大家さんは鍵を開けて中に入っていった
自分はドアの外で待つことにした
大家さんが入ってしばらくも経たないうちに、悲鳴が聞こえた
何事かと中を覗くと、何かを抱き抱えた大家さんがこちらを見て救急車と叫んできた
あまりの必死な形相に携帯を取り出すと119を押した
コールガールの声を聞きながら、部屋の中から漂ってくるあの臭いを嗅いでいた
部屋の住人は風邪をこじらせて死にかけていた
必死に手の届くところにあったつまみやインスタントの麺を齧り生き繋いでいたのだった
もしも、あのまま放置されていたらそのまま死んでいたそうだ
身体にはひどい床ずれができていた
あの臭いは生きたまま人の腐る臭いだった
包帯を巻いたままの傷口のような臭い・・・
それはどこか懐かしく、いつまでも味わいたいような臭いだった