その日は丁度土曜日で外来の患者さんはいないし、
お見舞いの人も少なくて、院内が閑散としていた。
いつもなら人でごった返す1病棟から2病棟に繋がる
渡り廊下もスムーズに行き来が出来た。
2病棟に届け物をして、戻るときに、
私の目の前で3台あるうちの左側の患者専用の
エレベーターが何も言わずにスーっと開いた。
なんとなくそちら側に目をやって「!?」ってなった
狭いエレベーターの中にみっしりと人が入っていて、
その中にいる人全員が皆同じ顔をしていた。
(着てるものや背格好は全部違っていた)
体つきは普通なんだけど、顔が普通の人の
3倍くらいに膨張していて、
顔のパーツが真ん中にグワーっと寄っていて、
その頭をグラグラとゆっくりと色々な角度を見るように
ゆらゆら動かしていた。
エレベーターは暫く開いたままで1階にとどまった後、
いつの間にか別の階に移動して行った。
「変なものを見たな…」と思って、渡り廊下を歩いていると、
向こうから誰かが歩いてきた。
さっき見たのと同じ顔のが3人、さっきと同じように
頭を動かしながら、
2病棟の方へ歩いていった。
すれ違ったとき、ぷん、と嗅いだ事のないような匂いが鼻を突いた。
なんとなく、「エレベーターに乗るんだな」と確信した。
その後、狐につままれたような気持ちでさっきあったことを
他の人に話した。
その人は暫く黙って私の話を聞いていたんだが、
こんな事を言い出した。
「この病院のエレベーターって喋るよね?
(一階です、ドアが開きます)とか、
(ドアが閉まります、閉まるドアにご注意下さい)とか。
なのに、黙ってドアが開いたの?それっておかしくない?
故障じゃないよね、
だって昨日業者さん来て点検してたし。」
あぁ、そういえばあのエレベーターは喋るんだった。
あれ?じゃあ、あの時どうして何も言わずに
黙って扉が開いたの…?
あの人たちはどこから来たの?
そんな事を考えはじめたらじんわりと背中に汗が伝わった。