仕事柄夜を徹してになってしまうこともままあった
特に午後過ぎてから開始の収録は
アクシデントがなくても終わりが夜中になってしまうことが多かった
その日の収録は深夜帯でやってたちょっとしたお笑い番組だった
とある劇団が主体になってたんだけど
出演者もスタッフも若手が多く、大学サークルのノリみたいな和気藹々って感じで毎回収録してた
大して大掛かりなセットを使うこともなかったんだけど、コントに合わせて複数用意することもあったから、収録場所のスタジオはそこそこ広いとこを使ってた
今は無き新宿の某歌番組で使ってたスタジオ
無駄な照明はつけないから人がいないとこ、セットを組んでないところは薄暗くて撮影用のライトが明るすぎるせいで、四隅なんかはまさに陰に沈んでいるようだった
その日は珍しくスモークを焚いたんだ
と言ってもそんなに多くはなかったんだけど
それでもいつもより埃の粒子が増えたみたいで、強いライトの照らす外側はなんだかモヤっと感じてた
収録が終わったのは1時回った頃
次々と出演者だの、局の人だのは帰ってく
俺らはそれを送り出しながら片付けをしてた
その日は本当はいけないんだけど、持ち道具の女の子が妹を連れてきてたんだ
いかにもサブカルって感じの子で21って言ってた
劇団の主催者のファンだったらしい
でその子も一緒に残ってたの
片付けてる間はやってもらう事ないから、端っこの方で待っててもらったんだけど
一段落ついたのは2時回ってたな
いざ帰ろうかってなったら姿が見えないんだよ
おいおい、どこ行っちゃったんだよ、勝手に歩き回られちゃ困るぜってんで、慌てて探したの
スタジオって普通の部屋みたいに全体を明るくする照明なんてついてないんだよね
しかも端っこの方は使わないセットだの木材だの置いてあって、下手に近づくとちょっと危ない
そんなとこに行くわけもないんだけど、万が一ってこともあるから、俺ら手にライト持っていちいち照らしながら声かけた
みんなで歩き回るからか、さっきのスモークが残ってるのか、ザラっとした粒子が待っててね、なんとも妙な雰囲気だったよ
そしたらライトの光の届くギリギリんとこ、視界の端の大きな板が重ねて立ててある奥方でモヤっと何かが動いたの
その板置き場抜けると外廊下に出る出口があんのね
そっちの方で、人影が動いたの
粒子のカーテンの向こうで微妙にぼやけて見えた
霧の中に人が浮かび上がるあの感じ
持ち道具の子も気づいてね、「◯◯、そっち出口じゃないよ~」ってライトを向けて歩き出したら、ライトの光から逃げるようにダダって走りだす勢いで影が逃げたのね
持ち道具の子、気が短かったから「帰りたいのにふざけんな!」ってちょっとイラっとした声あげてその暗いほうへ走りかけたら、
「お姉ちゃん、どうかしたの?」って正に反対側のスタジオの出入り口の方から、スタイリストの子と一緒にその子が入ってきたの
トイレ行ってたとか言って
で、ビックリして持ち道具の子が止まって振り返った途端、俺の手にしてたバッテラがバツン!って音立てて切れた
「うわあ!!」って持ち道具の子が大声出したのにみんなびっくりしてね、「うわあ!」て口々に叫びながら明るい廊下に飛び出したよ