怖い話

【怖い話】何かを引きずる音

86: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:31:04.35 ID:QZKoiujk0.net

これは、三年程前、私がアルバイトをしていた時、その旅行先で起きた出来事です。

ryokan

三年程前、私はアルバイトで、とある学習塾の講師をしていました。
今テレビ等でCMが流れている様な学習塾程大手ではありませんでしたが、地元ではそこそこ有名な塾で、通っている生徒さんも沢山いました。
地元密着型で、基本的には県内のみに教室があったのですが、当時は最盛期で、県内に三十校以上は教室が存在していたと思います。
そんな会社ですが、やはり、不景気の波には逆らえず、年々経営が悪化していきました。
最初は黒字だった経営が、少子化や不景気の影響で徐々に赤字に・・・最終的には、教室を幾つか閉鎖するまでになってしまったのです。
経営陣は、流石にこれはまずいという事で、集客の為、新しいイベントを計画しました。

それは、全塾生を対象とした、夏休みの合宿です。
今では、学習塾による夏休みの合宿は最早恒例行事となっておりますが、私がアルバイトをしていた当時は合宿をする学習塾は中々少なく、
また、合宿を行う為の宿泊費、参加する生徒さんにお支払い頂く参加料金等かなり高額なものもあり、打ち出す側としては、かなり勇気のいる行事でした。
しかし、これ以上の経営悪化と教室の閉鎖を防ぐ為、会社は合宿に踏み切ったのです。
参加料金が高額な事もあり、当初は、各教室の半数か最低でも三分の一が来てくれたら良いか、と経営陣や講師は考えていたのですが、
我々の予想を良い意味で裏切り、まさかの全教室全員参加という結果になりました。
経営陣も講師も歓喜に湧き、この合宿を絶対に参加させようと心に決めたのです。
そして、合宿の日がやって来ました。
私達は静かで、騒音も少なく、勉強の妨げとなる様な誘惑である繁華街も少ない、とある県のホテルを選びました。
冬場にはスキー客でとても賑わう場所なのですが、夏場には雪もなく、観光客も少く、また自然も多くて空気の綺麗な理想的な場所だったのです。
合宿は、九泊十日の長丁場で、毎朝必ず六時に起床し、付近の高原を散歩してから、朝食をとり、勉強をする、というものでした。
その、朝の散歩の下見の時間の事です。

 

87: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:33:25.71 ID:QZKoiujk0.net

私達は子供達の気持ちが少しでも盛り上がれる様、毎朝散歩コースを変えているのですが、三日目の散歩コースの下見中、私達は不思議な物を目にしたのです。
それは、とても大きな・・まさに、巨木というのに相応しい大樹だったのですが、変わっているのは、それが、まるで三つ編みの様に三本が絡み合っているのです。
三つの巨木が絡み合う、その真下に、古い上に風雨に晒された事によりインクが掠れ文字は読めなくなっていましたが、立て札の様なものがありました。
それに気付いた、とある講師の男性が
「これを縁結びの木にしよう!」
と、言い出したのです。絡まる姿から縁結びを連想したのでしょう。
「縁結びの木って言ったらさ、女子に人気出そうじゃない?」
「確かに!」
そう、確かに、女子には人気が出そうな内容かもしれません。
うちの学習塾は当時、男子よりも女子の比率が高く、女子の人気を得たり、好感度を高める事が必須だったのです。
そして、とある男性講師俊輔さんが遂に
「取り敢えず、これは抜いて隠して置こうぜ!」
と、大樹の側に刺さっていた立て札を抜いてしまったのです。
思わぬ俊輔さんの行動に、私達は一瞬息を呑みました。
しかし、数人は直ぐに
「そうだね!」
「こんなもんがあっと辛気臭いもんね!」
「隠しちゃえ隠しちゃえ!」
と、抜いた立て札を近くの繁みまで運び、隠し始めたのです。
そして、散歩に来た生徒達に、その大樹はこの土地に古くから伝わる縁結びの木として説明をしたのです。
その散歩中の事でした。
雪がない、ゲレンデであった高原を散歩している最中ーー
「うわぁぁぁっっ!!」
絹を裂く様な悲鳴と共に、私の目の前を歩いていた筈の俊輔先生が消えたのです。
「えっ?!何?!」
私も生徒も混乱しました。
そして、辺りを見回し、俊輔先生がいなくなった辺りを探してみると
「きゃぁぁぁ!!!!」
そこには、地面と地面の間に亀裂が走っており、まるで落とし穴の様になっていたのです。
そして、その中に俊輔先生がいました。
知らずに足を滑らせてしまった為に受け身が取れなかったのか、首と足を有り得ない方向に曲げた状態で亡くなっていたのです。

 

88: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:34:55.43 ID:QZKoiujk0.net

講師も子供達もパニックに陥りました。
そして、私達は我に返ると、どうにか、泣き叫んだり放心する子供達を宥めながらホテルに戻りました。
ホテルに戻って直ぐに経営陣にことの次第を報告したのですが、合宿は即中止の判断が下されました。
そして私達は手分けをして子供達の保護者に電話をしたのですが。

その夜。
俊輔先生の突然の死と壮絶な死に方に、私は眠れぬ夜を過ごしていました。
目を閉じると、あの穴に落ちていた俊輔先生の顔が目に浮かんでしまうのです。
そんな時
コンコン!
私の部屋のドアが僅かにノックされました。
(誰・・・?)
コンコン!
(こんな夜中に誰だろう・・・?)
「先生。夕紅先生。」
聞き覚えのある声に、直ぐに、担当している生徒だと思いました。
私は直ぐにドアを開けると
「どうしたの?」
と、尋ねました。
すると、彼女はとても青ざめた顔で言いました。
「私の部屋の上から、変な音がするんです。」
だから、昼間の事もあるし怖くて眠れないのだ、と。
生徒の不安を取り除いてあげるのも講師の重要な仕事です。
私は彼女と一緒に、彼女の部屋がある上の階に向かいました。
すると、私達が上に向かう階段を登っている最中

ズルッ・・ズルッ・・・
まるで、何かを引きずる様な・・確かに、変な音がするのです。

ズルッ・・ズルッ・・・
その音は動いている様で、最初は彼女の部屋の近くから聞こえていましたが、徐々に遠ざかり、今は廊下の奥から聞こえている様でした。

 

89: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:38:45.97 ID:QZKoiujk0.net

ズルッ・・ズルッ・・・
階段を登りきった私達は、廊下に出ました。
そして、廊下を見回してみました。
すると
「ひっ・・・!」
廊下の奥に、真っ青な顔の久美子先生の両足を持って引き摺る女性の姿があったのです。
長い黒髪に、真っ白な着物を着て、青ざめた肌に異様に手足が細い女性が、同じ位真っ青な顔で・・・
恐怖の余り悲鳴すら上げられない久美子先生をずるずると引き摺り、何処かに連れて行こうとしているのです。
久美子先生も床のカーペットに爪を立て、どうにか連れて行かれない様にしている様ですが、その爪は何枚か剥がれ、血が流れており、全く阻止する役目を果たしていませんでした。
「久美子先生!!!」
このまま連れて行かれたら、確実に久美子先生は殺されるーー!!
私達はそう思い、大声で叫びました。
勿論、今考えると私達が殺される可能性の方が高かった訳ですから、今考えるととかなり軽率な行動です。
しかし、あの時は、久美子先生を助けなければ!と必死だったのです。
すると、私達の叫び声に、久美子先生の脚を持っていた女性が顔を上げました。
長い黒髪で覆い隠されていたその顔がゆっくりと、しかし確実に私達を捉えたのです。
「きゃあああああ!!!!」
「っ・・・・!!・」
その女性の顔には、目や鼻がありませんでした。
いいえ、正式には、目や鼻や口はある事にはあったのですが・・・その全てから大きな蛇が無数に這い出して来ていたのです。
余りにショッキングなその姿に生徒さんは気を失ってしまいました。
私も気を失ってしまいたかったのですが、それでは久美子先生を助ける事が出来ません。
それに何より、あまりに異様なその姿にまるで金縛りになった様に足がすくみ、情けない事に動く事すら出来なかったのです。
その蛇を生やした女性は私達に気付いて尚、久美子先生を引き摺る事を止めようとはしませんでした。
「く、久美子先生を離せ!!」
私はそう叫びました。
すると女性は、もう一度私の方を振り向くと、久美子先生を引き摺ったまま、ゆっくりと此方に向かって来たのです。

 

90: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:41:55.22 ID:QZKoiujk0.net

「ひぃっ?!来るな!!」
私はホテルの廊下に飾られていたお花や置物を手当たり次第に投げつけました。
しかし、それらは女性層に当たる事なくすり抜けてしまい、女性は遂に私の目の前に立ち、久美子先生を離すと、その両手を私に伸ばして来ました。
(殺される!!!)
女性の青白く病的に細い手が私の首に絡み付き、恐ろしい程強い力で締め上げて来ました。
(く、苦しい・・・!)
首の骨が折られてしまうのではないかーーそんな、万力の様な強い締め上げを首に受けながら、何時しか私は意識を失っていました。

「先生!夕紅先生!」
私は、私を呼ぶ生徒の声と私を揺さぶる振動に目を覚ましました。
「先生っ!良かったぁ・・・!!」
するとそこには、昨夜気を失ったあの生徒の非常に安堵した顔があったのです。
(・・私は、どうしたんだっけ・・・?)
起きたばかりで回らない頭のまま辺りを見回した私は、そこが昨夜の廊下だという事に気が付きました。
私が投げた花や置物が乱雑に散らかったままの床、久美子先生の血の跡がついたカーペット。
まるで時が止まったかの様に、全てが昨夜のあの時のままでした。
そして、我に返った私は久美子先生がいない事に気が付きました。
久美子先生だけではなく、あの女性も。
「久美子先生は?!」
私と生徒さんは慌てて久美子先生の部屋を見に行きましたが、中はもぬけの殻で誰もいませんでした。
「何処に行ったんだろう・・・?」
私達は他の先生に協力して貰いホテル中を探しましたが、何処にも久美子先生の姿はありませんでした。
まさか一人で帰ってしまったのか、そんな意見すら出ましたが。
私は
(そんな筈ない、あの女性に連れ去られてしまったんだ・・・。)
そう、確信していました。そうして、ふと、何故かあの大樹の事が頭をよぎったのです。
そう言えば、昨日亡くなった俊輔先生はあの立て札を引き抜いた直ぐ後に亡くなった・・・。
久美子先生も、俊輔先生と一緒にふざけてあの立て札を繁みに隠してしまったんだっけ・・・。

 

91: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:43:19.54 ID:QZKoiujk0.net

(もしかしたら・・・。)
私は、同僚の先生を伴い、あの大樹の元へ行ってみました。
すると、そこには
「久美子先生・・・!」
大きな大樹の一番上・・そのてっぺんの太い枝で首を吊っている久美子先生が、ゆらゆらと風に揺れていました。
その目は何か恐ろしい物を見たかの様にカッと見開き、口からは伸びきった舌がだらりと垂れ下がっていました。
そして・・・遺体の真下に、引き抜いた筈のあの立て札が、しっかりと刺さり、立っていたのです。
私達は息を呑みました。

私達は直ぐに地元の警察に連絡して、来て頂いたのですが、地元の警察の方々はしきりに頭を捻っていました。
「どうやって、あの枝まで登ってロープをかけたのだろう?」
そうです。
久美子先生の足元には梯子はおろか、踏み台になる物は何もなく、どの様にしてあのてっぺんの枝まで登ってロープをかけたのかが全くの不明だったのです。
(きっと、あの女性に絞め殺されて、あそこに引っかけられたんだ・・・。)
私は、そう確信しました。
そして、色々不明な部分はあるものの、俊輔先生と久美子先生の件は不幸な事故として処理されました。
その処理に釈然としない気持ちを抱えたまま、私達は帰る事になったのですが、迎えのバスが来るまでの時間、私は、あの大樹の事をホテルの支配人さんに聞いてみる事にしました。
すると、思いもかけない話を聞く事が出来ました。
昔、このホテルがある辺りの地域は夏場は酷い大雨に悩まされていたそうです。

 

92: 本当にあった怖い名無し 2015/03/08(日) 21:44:04.15 ID:QZKoiujk0.net

そして、ある年、余りに酷い大雨に近くの川が氾濫を起こし、沢山の方が巻き込まれ、沢山の命が失われたそうです。
その事態を重く見た、当時のこの村の長老が雨の神様を鎮める為、村から誰かを生け贄に選び、川に鎮める事にしたのだそうです。
そこで、村にいた身寄りのない一人暮らしの女性が選ばれたそうなのですが、その女性は生け贄になる事を嫌がり、密かに村からの脱出を図ったそうです。
しかし、結果として、女性は村の男性に見つかってしまい、もう二度と逃げ出さない様にと儀式まで長老の屋敷の倉に監禁されてしまったそうです。
そこで、絶望した女性は倉にあった荒縄で首を括り命を絶ったそうなのですが。
丁度その時、村は儀式の準備等で忙しく、また、監禁をして置けば女性も懲りて大人しくなるだろうという余裕から発見が遅れ、長老が発見した時には、女性の遺体はかなり凄惨な事になっていたそうです。
倉の細い小さな窓から忍び込んだらしい蛇が女性の遺体を食い荒らし、女性の目や鼻や口からは溢れんばかりの蛇が這い出していたそうです。
(私が見た人と同じだ・・・!)
そして、その女性が首を吊った倉があった場所があの大樹の生えている場所で、蛇の様に絡み合うあの大樹の姿から、あの大樹はその女性の怨念が形を成して現れたものなんだ、と地元の人々は恐れていたそうなのです。
あの大樹が生えてから、何も知らない小さな子供が登ったりしたらしいのですが、落下して亡くなる等不幸な事故が相次いだ為、遠い県から高名なお坊さんを招き、供養して貰ったそうです。
そして、そのお坊さんに頂いた経文を書きうつした立て札を鎮める為に刺していた、とのことでした。
その、鎮める為の大切な経文が書かれた立て札を私達は引き抜いてしまったのです。

大樹は直ぐ様、供養が行われ、一度帰った私達も直ぐ様引き返して参加をしました。
以降、私達の周辺ではあの夜の様な、身の毛のよだつ出来事は起こってはいません。

しかし、もし、あの時・・・私達が余計な思い付きを起こさず、立て札を抜かずにいれば、俊輔先生と久美子先生は死ぬ事はなかったのではないか。
そんな後悔が未だに頭を過る時があります。
好奇心は猫を殺す、という言葉がありますが、私達の場合は、好奇心により大切な同僚を二人も失ってしまった、恐ろしい結果となりました。

 

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