
子どもの頃の話なんで幻想が入り混じってるのかもしれないけど、妙に記憶に残ってる出来事。
ただ、文章にするために無理に記憶を掘り起こして話を組み立てたから、実際とは違ってる部分もあるかもしれない。
たぶん小学校の中学年ぐらいだったと思うけど、親父とボートにのってた。
今は半分以上埋め立てられてしまったけど、当時は城跡公園をぐるっとお堀がとりまいていて、貸しボート屋があった。
親父は県庁に勤めていたからたぶん日曜のことだと思うけど、母親はそのときはいなかった気がする。
日差しがまぶしく暑かった日だった。
親父は意外にボートを漕ぎ慣れてて、自分はぼんやり緑色の水面を眺めていた。
天気がいいせいか、他にもボートはたくさん出ていて、今にして思えば親子連れよりカップルが多かったんじゃないかな。
お堀の円周を石壁を見ながらほとんどのボートが同じ方向に漕いでて、自分は後ろを見てたけど、親父と話すんで前を向いたら、すぐ先に親子三人ののったボートがいた。
両親は若くて、子どもは幼児で母親に抱かれていて見えない。
それが水路がゆるい曲がりにさしかかったときに、母親の陰になっていた子どもが頭をのぞかせた。
頭は異様に大きくて、玉ねぎを逆さにしたように天辺がふくらんでる。
上を向いていたその子が奇声をあげて自分のほうを見た。
見たといっても両方の眼の焦点があってなくて、口から大量によだれを流している。
子どもながら、「ああかわいそうな子なんだな」と思って横を向いた。
お堀はいちばんカーブのきついところに来てて、岸からヤナギの木がしだれたその影になったところが、黒い泥溜まりで、ぽこぽこあぶくがわいている。
何気に見ていると、その泥の中から何かが出てくる。
魚だろうと思ったら、緑がかった黒い泥で汚れた指先なんだ。
それがゆっくりゆっくりなんかをつかむような形で両手が突き出されてくる。
そのあたりは水がにごっていて、水面下に何があるか見えなかった。
前のボートの母親らしい人も、その手に気づいてるみたいで、ずっとそっちのほうを見ている。
手はもうひじを過ぎて二の腕まで出ていて、指を小刻みに動かしている。
前のボートが手の脇を抜けようとしたとき、母親が「はい」という感じでおばあちゃんにでもあずけるような動作で、その抱いていた子どもを泥の手に渡そうとしたんだ。
するとそれに気づいた若い父親がばしゃっと泥の手の上をオールでたたいた。
手はその一瞬で消えるように見えなくなった。
若い父親が母親に向かって強い口調で何か言った。
記憶はこれだけ。
ボートから降りその人たちと離れてから、見たことを親父に話したら、親父は微笑みながらも、自分が早口でまくしたてるのをけっこう真顔で聞いていた。
ボートの中で自分の様子が変化するのを見ていたからだろうか。
「うーん、お前は・・・人の心を見たんじゃないかな」
と一言、それ以上何も言わなかった。
そういえば来年は親父の7回忌になるな。
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